(その十五)

対岸にイランの国土が見えるドバイという国は、一哉が育った町の広さ程度しかない、およそ、国などと想像しようがないほど狭いのに、ホルムズ海峡が二十世紀の世界にとって最重要戦略基地の一つとなった結果、世界から注目を浴びる一大(?)国家となった。
まさに、石油が世界を変えたのが二十世紀だった。
そして、スエズ運河の存在を見逃すわけにはいかない。
なぜ、スエズ運河はつくられたのか?
スエズ運河はフランスの外交官フェルディナンド・レセッップスによって1859年から10年掛かって完成されたのだが、その彼がパナマ運河開設をも企んだところに歴史の真実が隠されている。
そして、フェルディナンド・レセッップスのパナマ運河開設という企みを阻んだのがアメリカだった。
1914年にパナマ運河を完成させたアメリカは以後1999年まで管理権を堅持していた。
まさに、二つの運河の管理権は、石油の管理権と同じ意味を持っていたのである。
2011年3月11日に日本を襲った大地震は、原子力発電の是非論にまで波及した大事件だった。
ご多分に洩れず、問題が発生してから外野の小うるさい雀たちは、「原発絶対反対!」と喚き散らす。
原発の本質で以って是非論を展開する人間なら、こういう事態では「原発絶対反対!」と騒がないものだ。
なぜなら、この世を構成している宇宙は、すべて原子が原点にあって、原子が持つ力こそ宇宙そのものの象徴なのだから・・・原子の力を利用することは、自然社会で生きるものにとってはごく当たり前である。
我々人間も太陽の熱なくして存在し得ないのであり、この太陽の熱も水素爆弾の爆発によって生まれたものだから、やはり、原子力発電と同じ原理だ。
宇宙の誕生をビッグバンと云う。
赤ん坊が母親の胎内で受精することもビッグバンだ。
ビッグバンが起こって、10の44乗分の1秒後に「重力」が分化した。
更に、10の36乗分の1秒後に、「強い核力」が分化した。
更に、10の11乗分の1秒後に、「弱い核力」と「電磁気力」が分化した。
しかし、ビッグバン以前にあった力は唯一の力だった。
まさに、唯一の力こそが努力という力だった。
そして、努力という力が「弱い核力」に分化していって、原爆や原発が誕生した。
従って、更に、原爆や原発といえども、もともとは「弱い核力」であって、存在するものに一方的に悪いものなどない。
問題は使い方であり、2011年3月11日の大地震で起こった原発問題の本当の原因は、官僚支配の日本という国(官)が民間企業(民)に送り込んだ(天下りさせた)連中の、“自分さえよかったらいい”という考え方に最大の原因があった。
言い換えれば、無責任が生んだ悲劇である。
責任ある人間がすれば、原発自体は何ら問題はない。
原子力発電は、太陽光発電や風力発電と同じ自然力発電には変わりないのに、太陽光発電や風力発電は賛成で、原発は反対。
まさに、我々人間は分裂症だ。
ハワイのワイキキの浜辺でダイナミックなサーフィンを楽しませてくれる大波は歓迎され、今回の大震災で起こった津波は歓迎されない。
同じ大波に変わりはないのに、まさに、我々人間は分裂症だ。
詰まる処、唯一の力であれば、使い方次第という問題は起こらない。
つまり、努力という力は唯一の力だから、使い方次第という問題は起こらない。
唯一の力を四つの力に分化させたから、使い方次第という問題が起こるのだ。
努力という唯一の力を使った原子力発電を考えればいいのである。
まさに、弱い核力だけを利用した原発だから問題が起こるのだ。
重力・強い核力・弱い核力・電磁気力を統一した唯一の力を利用した発電なら問題は起こり得ない。
弱い核力・電磁気力を統一した統一理論は完成し、強い核力・弱い核力・電磁気力を統一した大統一理論も間近だから、完璧な原子力発電はもうそこまで来ていると言っても過言ではない。
ここで原発廃止を世界がしたら、その芽を摘み取ることになる。
我々人間はここでも間違った行動を取ろうとしているのだ。
一哉がこれから訪ずれようとしているイランという国は、隣国トルコと表裏一体の国である。
黒海とカスピ海を眺めながら育った姉妹国だ。
そして、西洋と東洋を橋渡ししてきた重要な地域なのである。
西洋社会の人間を白人と称し、東洋社会の人間を有色人種と今では蔑んでいるが、元を糾せば、白人種のルーツはトルコとイランにあった。
人種の差別ほどナンセンスなものはない。
人種のルーツはアフリカ系黒人、アジア系黄色モンゴロイド、インド・アーリア系白人がシュメールの地で集結・分散していった結果、2500種類の民族と5000種類の言語が誕生したのである。
バビロン(イラク)にあるバベルの塔は、もともと人類は一種類一言語の生きものだったのに、余りにも諍いが絶えないのを見た神が、人類を世界に分散させていった場所なのである。
どうやらやっと人間社会が抱えている根源的問題に辿り着きそうな気配になってきた。
まだ22才をやっと超えた一哉の肩にその重しを課せるのは人情としては忍びないが、これもまた自然の摂理なのだろう。
ドバイから対岸にあるバンダール・レンゲという港町へのフェリーボートに乗った一哉は、アケメネス朝ペルシャの都ペルセポリスがあるシラズに向かった。
そして、ペルセポリスで運命の女性と出逢うことになる。
ペルセポリスはアケメネス朝ペルシャ帝国の都でダリウス1世が建設した宮殿群であった。
遺跡はイランのシラズ地方にあり、ペルセポリスの名はギリシャ語の記録に由来し、ペルシャ語(ファルシーと呼ぶ)でなんと呼ばれていたのかは未だ不明である。
紀元前331年、アレキサンダー大王の攻撃によって破壊され廃墟となった。
ペルセポリスの名がはじめて歴史に登場するのは、古代ギリシャの歴史家クレイタルコスの著した『アレキサンダー伝』であったといわれている。
この書が後世多くの学者によって引用されたために、ペルセポリスの名もアケメネス朝の王都の名として広く知られるようになったが、ペルセポリスの名が記録されるのは、既に破壊された後のことである。
ペルセポリスという名称は「ペルシャの都」と「都市を破壊する」を掛けた一種の言葉遊びであったとも言われている。
そのペルセポリスで、当時ハリウッドスターの頂点にいた女優エリザベス・テーラーと一哉は出逢った。
映画「クレオパトラ」に主演した彼女は、相手役リチャード・バートンと恋に落ち結婚したが、やがて破局が訪れた。
失意の中で彼女はペルセポリスにやって来たのである。
ペルセポリスを破壊したアレキサンダーこそ、リチャード・バートンが世に出た最初の作品の主人公だったからだ。
一哉と彼女の出逢い劇の幕を切って落としたのは一哉ではなかった。
「あなたにはオーラが出ているわ!」
彼女から最初の言葉が発せられたのである。
受信アンテナが人一倍鋭い一哉のことだから、彼女が世界的女優のエリザベス・テーラーであることは承知していたが、流行に敏感な一億総日本人ミーハーだと欧米社会では揶揄されていることを熟知していただけに、彼は無関心を装っていた。
彼女の発した言葉によってデジャブ現象が起こっていたことは、その時の一哉には気づく術もなかったが、予感めいたものが働いたことだけは自覚していたし、彼の恐るべき記憶力がその時の経験をありありとしたものに維持されていた。
それから10年後の12月の師走も押し迫る30日に一哉はドイツの旅から久しぶりに帰郷の途に就いていた。
成田空港から伊丹空港行きの便が満席であったため、彼は成田から羽田へ向かい、国内線の伊丹行きの便に乗ることにした。
離陸直前にかろうじて羽田に着いた彼は、出発ロビーからゲートまで運んでくれる最後の送迎バスに飛び乗った。
座席のないだだ広い空間だけの送迎バスの中に着物姿の小柄な女性が一人だけ乗っていた。
『美空ひばりだ!』
察知能力にずば抜けている一哉はすぐにわかった。
大きな四角い空間の中で、お互い、対角線上に立っていた。
野生動物に似た直感がお互い働いたのだろう。
「あなたにはオーラが出ているわ!」
ドスの利いた低い声で、他方の対角線上に立っている一哉に、着物姿の女性は話し掛けてきたのである。
それまでの一哉の『美空ひばり』観は芳しいものではなかった。
まさに、食わず嫌いのままだったのだが、ひとたび味わえばこれほどの美味はない。
一哉は一気に『美空ひばり』ファンになってしまった瞬間だった。
10年遡った今、まさに、逆デジャブ体験をしようとしているのである。