第四十五章  黒幕は誰だ?

その夜、モハマッドはライネック・グローニーの広場を歩いてみた。
ラドムからクラクフに着いた頃から、数人の影を感じ取っていたが、ライネック・グローニーに着いてから影が消えてしまったからだ。
『何処かに潜んでいる筈だ!』
そう思った彼は、自分から姿を見せることによって相手を引っ張り出すつもりで、真っ暗な広場に出てみた。
大きな広場だが、そのど真ん中にスキエンニスと呼ばれる繊維会館があるために、姿を潜める場所はいくらでもある。
しかし、バスラとモスクワでプロのテロリストとして訓練を受けたモハマッドには、すべてはお見通しである。
テレパシーを働かせて、人の気配を感じ取った彼は呟いた。
『7人もいる!しかし散らばっているとは、馬鹿な奴らだ!』
広場の出入口のところに4人、スキエンニスの大きな建物のうしろに隠れている連中が3人いる。
モハマッドはゆっくりと歩いて、ライネック・グローニー駅への出口に向った。
広場を出た角に4人の男が隠れているのを察知すると、腰に装着したモーゼルに手も掛けずに、走り出した。
二つの影が急に忙しく動き出した。
「バシッ!バシッ!」
二回折れるような音がした。
それから又沈黙が続く。
「バシッ!バシッ」
また折れるような音が二回した。
「おい、お前だけは殺さずにおいた。何故だからわかるか?」
石畳の道路の上に倒れた男を抱きかかえながら、モハマッドは囁いた。
「うんん!うんん!」
苦しそうに喘いでいる。
「お前は、モスクワからずっと俺を張って来ただろう。俺はお前の影をずっと感じていたんだが、もうここらで自己紹介してみてはどうだい!ええ、おい!」
ニジンスキーそしてそのうしろにはアンドロポフの眼がずっと光っているんだろう?」
他の3人は、モハマッドの手刀の一撃で即死していた。
モハマッドが抱きかかえた男だけが、一命を取り留めていた。
敢えて頸動脈を外したのだが、気管支をやられたらしく、声が出せないでいる。
「アンドロポフが影にいることはわかっているんだ。そのうしろに誰がいるのかわからないんだ!お前は知っているだろう?知っているなら、肯くんだ!」
喘ぎながら、苦しそうにその男は首を縦に振った。
「そうか!それじゃその男の名前を言ってやろうか?」
モハマッドが、男の耳元に口をやって囁くと、その男はまた肯いた。
「そうだろう、俺の言った通りだろう。じゃあもう楽にしてやろう・・・」
そう言って、皮の手袋をした両手で、その男の口と鼻を塞ぐと、その男はすぐに息を引きとった。
『これで、俺の敵ははっきりした。無駄な殺傷をしたくないが仕方ないだろうなあ・・・』
再び、ライネック・グローリーの広場に入ったモハマッドはスキエンニスの建物の影に隠れている3人に向かって小さな声で呟いた。
「他の4人は死んだ!俺の敵が誰であるか、はっきりした。もうお前さんたちとやり合う意味がなくなった。どうしてもやるなら仕方ないが、もうどこかへ消えな!」
まったく音はしないのだが、モハマッドには、彼らが退いて行くのがわかった。
『結局は、カイロにまた戻るしかないようだ・・・』
モハマッドは西の方を向きながら、静かに呟くのだった。