第三十七章  戦慄のアサッシン

マンスールがゲオルグを連れて行ったのは、ソ連大使館だった。
ワルシャワ随一の高級ホテルメリディアンの隣がソ連大使館だった。
メリディアンは、フランス系の高級ホテルで、エジプトのアレキサンドリアにもある。
「何で、俺を大使館に連れて行くんだ?またバスラの時のように何か企んでいるんじゃないか?」
ゲオルグ大佐がマンスールに訊ねた時は、モハマッドの表情に変わっていた。
「その方が安全だと思ったんですが、お嫌ですか?」
マンスールのモハマッドに対する態度は以前とまったく変わらぬものであった。
「出来れば、隣のホテルの方がいいな」
人の心を読むことにかけては、マンスールも引けを取らない。
「やはり、メリディアンは懐かしいですか?」
モハマッドもニヤリと笑って頷いた。
「アレキサンドリアの地中海クラブの中にあるホテルのことを言ってるんだな?」
マンスールも笑いながら、「Mr.ガラブの持ち物なんでしょう。アレキサンドリアの地中海クラブは?」
と言った。
『Mr.ガラブか!あれからもう何年になるんだろう?トリポリで別れて以来会っていない。相変わらずカダフィ大佐のところに通っているんだろうな・・・』
モハマッドの心を察してか、マンスールからガラブの話が出た。
「Mr.モハマッド・ガラブは、つい1ヶ月前にトリポリで亡くなりましたよ」
モハマッドは驚愕した。
「何だって!」
マンスールはわざと平静を保っているようだった。
「カダフィ議長の逆鱗に触れて射殺されたんです」
一瞬、マンスールの表情が曇った。
モハマッドは、その変化を見逃さなかった。
『マンスールが殺ったんだ。顔にそう描いてある』
ニヤリと笑ったマンスールが続けた。
「カダフィ元帥がやったということは、わたしが手を下したということです。わたしが、Mr.ガラブを射殺したんです」
モハマッドが、モスクワ大学で訓練を受けたのは、遠い距離の間でも人の心を読むことができる能力だ。
モスクワとレニングラードの間でテレパシーを使って交信したこともあった。
マンスールが、Mr.ガラブを殺したと告白した瞬間、西の方向から、テレパシーが送られて来たのを、モハマッドはキャッチした。
送って来たメッセージの内容までキャッチは出来なかったが、モスクワからのミハイルとの旅が計画的に推進されていると、モハマッドは確信した。
「俺は踊らされているようだな?」
不敵な笑みを浮かべて、モハマッドはマンスールの顔をじっと見た。
「まあ、今日はモスクワからの旅で、お疲れになったでしょう。それでは隣のメリディアンの部屋を取らせましょう」
話題を変えたマンスールがますます不気味に見えるモハマッドだった。
「明日は、ゴルゾーまで600Kmのドライブです。午前7:00にロビーでお待ちいたします。それでは、おやすみなさい」
マンスールはホテルのロビーを出て、隣のソ連大使館に戻って行った。
フロントで鍵をもらったモハマッドは、ゲオルグに戻っていた。
フロント左側の奥にある、昔風のジャバラ式のエレベータに乗ろうとしたモハマッドは、鍵の番号を見た。
『211号。二階か、それなら階段で上がっていこう』
エレベータのボタンを押したモハマッドが、エレベータホールから、階段の方に回った瞬間、エレベータが大爆発を起こした。
階段を歩いて上がっていたモハマッドも一瞬、爆風で吹き飛ばされた。
二階のホールに足を掛けようとした瞬間のことだった。
『マンスールの仕業だ!』
騒然としている玄関ホールを、モハマッドは走り抜けて行った。
真っ赤な旗がかかっている、大きな建物の前にモハマッドは立っていた。
『バスラでの件も、ここで決着をつけてやる!』
鬼のような表情のモハマッドが呟いた時、戦慄のアサッシン・ゲオルグ大佐に変身していた。