第三十六章  運命の再会

ゲオルグ大佐が回転ドアーの中に入っている間に、ミハイルが入っていた前のドアーの中に一人の男が強引に入って行ったのだ。
そして、「パン、パン、パン」と乾いた音がした。
その音から判断してベレッタM92Fだと察知したゲオルグは、ミハイルが撃ち殺されたと思った。
先に、ホールに出たゲオルグは、自動小銃を持った6人の兵隊を、モーゼルC96で撃ち殺した。
そして、血の海と化した回転ドアーから出て来る男を待ち受けた。
『マンスールだ!』
ゲオルグは、回転ドアの中から出て来た緑色のつなぎ服を着た男の姿を見て仰天した。
バスラで別れたマンスール・アル・ヒラジが目の前に現れたのだ。
マンスールは、ゲオルグがモハマッドだと気づいていない様子だった。
「この建物の中に無断で入って来た者は、誰でも射殺されても仕方ない。お前も覚悟することだ!」
『マンスールの例の口調だ』
モハマッドは自分がモハマッドだということを明かさずに、身分を言った。
「わたしは、KGBのゲオルグ・ハシム大佐だ。KGBの人間と知ってのことか?」
強気で言ったゲオルグだったが、マンスールには通用しない。
「ここはソヴィエト連邦ではなくて、ポーランドの首都ワルシャワである。KGBの大佐がどうしたというのか」
冷たい表情で話すマンスールは、やはり迫力がある。
『もうこの辺りでいいだろう』
ゲオルグは、帽子を脱いで、マンスールに向かって笑いながら言った。
「俺だよ、マンスール。モハマッドだよ」
ゲオルグ大佐は口髭を伸ばし、帽子を深くかぶっていたから、マンスールには判らなかったのだ。
「モハマッドか?本当にあのバスラで一緒にいたモハマッドかい?」
マンスールの表情が崩れた。
「モスクワ大学のニジンスキー教授は、リンネ・ニジンスキーつまりマンスール・アル・ヒラジの叔父にあたるんだろう?」
モハマッドは微笑ながら言った。
モハマッドだと、やっと気づいたマンスールは急に明るい表情に変わって、モハマッドに向かって言った。
「モハマッド・ハッサンですか?」
モハマッドは頷いた。
「じゃあ、ドアーの中の・・・?」
マンスールは少し表情を曇らせた。
「ミハイル・ウスペンスキー中尉だ。空軍からKGBに派遣された特殊工作員で、俺をベルリンまで運んでくれることになっていたんだが、どうもこの建物に興味があるらしく、それで付き合ってやったんだが、そこでお前に会うとはなあ!ところで彼は死んだのかい?」
マンスールは頷いた。
「そうか!困ったなあ。これからポツナンの空軍基地に行って、明日には国境の町ゴルゾーに行かなければならないんだ。それよりお前は、ここで何をしているんだ?」
「わたしは、ここで傭兵として働いていたんです。傭兵というより用人棒と言った方がいいでしょう。だから、あなたに殺された兵隊のことなど気にしていません」
モハマッドが撃ち殺した6人の兵隊の方に目をやりながら、マンスールは冷たい目をしながら言った。
「それじゃ。わたしが明日、ゴルゾーの町まで、お送りしましょう。今日は、ワルシャワでお泊りください。ゆっくり懐かしい話でもしましょう」
トリポリでカダフィー大佐の傍に居た頃の、輪舞のマスター、マンスール・アル・ヒラジに戻っていた。