第三十三章  波動ガン

「マムードじゃないか!」
モハマッドは、バスラでの訓練生の一人だったマムードの姿を見て驚いた。
マムード・ビンタというシリア人で、ソ連が雇う暗殺者の一人だと噂で聞いていた非常に危険な男だったが、リーダーのモハマッドには従順だった。
「お知り合いで?」
ニジンスキー博士がモハマッドに訊いた。
「バスラでテロリスト訓練を受けた時のリーダーです」
マムードが博士に返事をした。
「それはまた世間は狭いですね!」
博士は複雑な表情で言った。
「一体、こんな所で何をしているんだ?」
モハマッドはマムードに訊いてみた。
「今朝急にモスクワ大学まで出頭するようにと命令されたので、やって来たのですが・・・」
モハマッドは嫌な予感がした。
「ドン!」
重たい扉が再び開く音がした。
白衣を着た美人が入って来たのだ。
「ナターシャといって、わたしの助手をしています」
笑顔を見せているが、青い瞳の奥にある凍るような目つきに危険を感じたモハマッドもナターシャに対して作り笑いをした。
「マムード!そこにある椅子に座るんだ」
博士がマムードに向かって命令した表情も凍りついていた。
『まるで死人に対して話しているみたいだ』
モハマッドが思った瞬間、白衣の女性が椅子に座っているマムードを凝視した。
二人の間の距離は、およそ10メートルぐらいだったが、マムードが急に頭を抱えて苦しみ出した。
ナターシャの視線がますます強烈になって行くにつれて、マムードの動きがますます激しくなっていった。
この状態が、およそ5分続いた。
終に、マムードは椅子からひっくり返って床の上で気絶してしまった。
「マムード!大丈夫か?」
傍に走り寄って、大声を上げたモハマッドだったが、マムードは死んでいた。「どういう積もりなんだ!友達を殺すなんて」
モハマッドがニジンスキー博士に怒鳴りつけた。
「彼はテレパシー実験のモルモット役ですから、気にすることは要りません」
モハマッドが博士を睨みつけた瞬間、針を刺されるような強烈な痛みが、モハマッドの頭を襲った。
ナターシャから発せられたテレパシーの力だった。
モハマッドも床の上に倒れたが、人一倍強靭な精神を持っている彼は、必死にナターシャを睨み返した。
今度はナターシャが頭を抱えているのを見て、博士は仰天した。
『この男は天才的な素質を持っている、長官もえらい奴を探して来たものだ!』
自分の可愛がっている美人秘書が悶絶しているのを、まざまざと見せつけられて博士は呟いた。
モハマッドは更にナターシャに攻撃を続けた。
着ていた白衣を、睨むだけで自ら脱がせたのだ。
下着だけになったナターシャが胸を掻きむしって苦しんでいるのを、更に睨みながら、モハマッドは博士に向かって静かに言った。
「もっと脱いでもらおうか、博士?」
その時、ドアーの開く音がした。
「もう、波動ガンテストは、そこまででいいだろう!」
アンドロポフが叫んだ。