第十九章  裏切り

シナイ半島とサウジアラビアの国境は、唯一ベドウィンが行き交う場所で、国境の無い彼らにとっても、シナイ半島がイスラム圏外になると自由に往来できなくなる。
ましてや、イスラエルは大胆にも、占領地という危険な地域にユダヤ人を入植させ始めた。
そしてベドウィンの国境超えを防ぐ為に、地雷を埋めたのだ。
イスラエルにとっては、神との約束の地カナンに匹敵するのがシナイ山である。
モーゼが、最初にヤーヴェの神と出会い、ヘブライ人をエジプトの奴隷から解放して、十戒を与えられた神聖な地である。
1967年の第三次中東戦争の時、イスラエル軍は、真っ先にシナイ半島を占領した。
アラブ連合、特にエジプトにとってシナイ半島を奪い返すのが悲願であったから、ナセルの後を継いだサダト大統領は、ガラブがカダフィーに石油の継続供給の交渉をする際に、シナイ半島奪回の話し合いもするように指示していたのだ。
正に、サダト新大統領にとって力づくでのシナイ奪回作戦だったのだが、モハマッド他40名の者たちは決死の訓練だと思っていた。
バスラから輸送機でシナイ半島のサウジアラビア国境に着いた一行は、サウジアラビア軍と合流した。
そこでサウジ軍を見たモハマッドは驚愕した。
『何だ!サウジ軍と言っても、みんな外人部隊ではないか!』
世界最大の産油国となったサウジアラビアは、すべての汚れ仕事を、パキスタン人や韓国人を雇ってやらせていた。
軍隊もすべて外人部隊だから、全く士気に欠ける連中だった。
『まあ、訓練だからいいさ!』
そう思って自分を慰めていたら、外人部隊の連中が、がやがや騒いでいる。
「おい、今度の戦いはイスラエル軍だから、よほど上手く立ち回らないと、命がいくつあっても足りないぜ。ましてや、地雷がいっぱい埋った中を侵攻するんだから、さっき来たエジプト人の連中に先に行ってもらおう。あいつらがだらしないからイスラエルに占領されたんだ。自業自得だ」
話を聞いたモハマッドは、激怒してマンスールの処に行った。
「おい、お前。俺たちをだましたな!」
真っ赤な顔をして叫ぶモハマッドの目をじっと見つめながら、マンスールは口を開いた。
「飽くまでも、これは訓練です」
白を切るマンスールに、外人部隊の連中の方を指さしてモハマッドは叫んだ。
「あいつらは、実戦だと言ってるんだ!まだ嘘をつくのか!」
ふたりの間に殺気が走った。