第十八章  核弾頭

「トッコータイ」「ニンゲンギョライ」が、核の時代に出現していたら、アメリカを筆頭の大国は、枕を高くして寝てはいられなかっただろう。
当時の日本がアメリカと戦争をすることは無謀な行為だと世界の誰もが思っていた。
当の日本軍の最高本部もそう思っていた。
だから捨て身の作戦しかなかったのだ。
それが、「トッコータイ」であり「ニンゲンギョライ」であった。
しかし、当時の火薬は、せいぜいTNT火薬数トンクラスまでのものであったから、自爆攻撃をしても、敵側を徹底的に壊滅させるまでの効果はなかった。
しかし,今や水素爆弾はTNT火薬5000万トン(50メガトンクラス)のものがあり、広島に落された原爆がTNT火薬5万トンに相当するから、それの1000発分に当たる。一発で日本列島、カリフォルニア州が壊滅する威力を持つ。
カリフォルニア州の人口は、3400万人はいる。
1人で3400万人なら対効果としては最高である。
マンスールの究極の目的は、「水爆を抱えたニンゲンギョライ」であった。
第一次世界大戦では1千5百万人の戦死者が出た。
第二次世界大戦では、8千万人の戦死者が出た。
1週間の間、訓練はまったくなかった。
モハマッドはマンスールに伝えた。
「みんな、余りにも静かなので却って不気味だと、言っているよ。次の訓練がどんなものか知らないけど、肉体より精神がもたないよ」
「そうですか。そんなにプレッシャーが掛かっているんですか?それなら、もういいでしょう。明日から次の訓練を始めましょう」
マンスールが、事もなげに言うので、モハマッドは、どんな訓練かを訊く間もなかった。
翌朝、召集を受けた訓練生は怯えていた。
直感でわかるのだ。
今回の訓練生は選ばれた猛者たちである。修羅場を何度も踏んできた経験があるから、直感が働く。
『今度の訓練で半数の者が死ぬ』
そう感じているのだ。
水爆を抱えて、「トッコータイ」や「ニンゲンギョライ」になる訓練だと言う。
マンスールは、訓練の最初に当たって、今回の訓練の趣旨を説明した。
「ここにいるモハマッドをリーダーにした40人は、アメリカを筆頭の大国のエゴを完膚無きまでに粉砕する為に選ばれた聖戦(ジハード)の戦士であります。言うまでもなく、彼らは国連という偽善の傘の下に、核保有国などとふざけたルールを決め、自分たち以外は核を保有することを認めないと、平然と言う、恥知らずの国家であります。彼らを震撼させる為に、我々は選ばれたのです。従って、生命は元より無いものと覚悟されているとは思いますが、これからの訓練は、地雷の埋められた中を直感と勇気で走り抜けるものであり、かつイスラエル軍が埋めた地雷の安全ルートを確立するという一石二鳥の訓練です。みなさんにとっては決死の訓練ではありますが、それが一般民衆が地雷によって受ける被害を解消することにも貢献出来る、崇高な訓練だと考えてください。それでは、これからシナイ半島とサウジアラビアの国境に向かいます」
1967年の第三次中東戦争でイスラエル軍はシナイ半島を占領した。
シナイ半島と言っても、ほとんどベドウィン(遊牧民族)が行き来するだけでほとんど定住している者はいない。
しかし、イスラエル軍は卑劣にも、シナイ半島とサウジアラビア国境に無数の地雷を埋めたのである。
サウジアラビアのネフド砂漠とシナイ半島を行き来するベドウィンが、その地雷の犠牲になっているのだ。
モハマッドは、その事実を知らなかった。
「みんな、訓練と言うより、決死のベドウィン救援隊と思えば気楽になれるさ」
緊張するみんなの心を和らげるつもりで言った。
「いいですよ。我々は水爆を抱えた核弾頭の役目なんですから、地雷なんか、たかがしれていますよ」
ヨセフという名の一人の若者が言った。