第十七章  1対1万

「我々ジハードの戦士1人の戦力は、敵の1万の戦力に匹敵する能力を具えなくてはならない」
マンスールは熱く語った。
「かつて十字軍が我々イスラム教徒の皆殺し作戦を400年に亘って展開した時、我々は、彼ら十字軍100人に1人で立ち向かい、そして彼らの目的を阻んだ。
いま彼らは大量破壊の近代兵器を持っている。そんな彼らに対抗するには、彼ら1万人に、我々1人がゲリラ戦で立ち向かうしか道は無い。それがジハードの戦士だ」
モハマッドは心の中で呟いた。
『それがテロリスト集団だ』
モハマッドは最早、テロリストでもジハードの戦士でも、どっちでもよかった。
『要するに、敵1万人を1人で打ち負かすプロ集団であればいいんだ』
自分でそう納得させていた。
正面衝突すればシナイ半島で虐殺に遭うのが解っていて敢えて正面衝突したナセルを勇敢だと捉えるか、無謀と捉えるかの問題であるが、今は亡きナセルの跡を継いだアンアール・サダトは現実派の大統領であった。
みすみす負ける戦争は決してしない。
産油国でありながら、いち早く共和国にして石油メジャーから独立したのはイラクで、その後、リビアのモアマール・カダフィーが成し遂げた。
新しくエジプト大統領になったサダトは、産油国でないエジプトが生き残るには、和平路線しかないと思っていた。
そこが同朋ナセルとの決定的な違いだった。
サダトは両面作戦を考えていた。
イスラエルと正面衝突すれば、完膚なきまでにやられるが、ゲリラとテロで対抗すれば,彼らも手を焼く。
そこで、和平路線の話し合いをして出来るだけ有利な条件で合意するしか、お互いの道は無いと確信していた。
イスラエルはゲリラやテロは出来ない。兵士の数が少ない上に、世界の警察アメリカがついていて、テロを容認する訳にはいかない。
警察が犯罪をすれば、世の中がばらばらに解体してしまう。
イスラム人口は12億人、エジプトだけでも6000万人の人口がいる。
イスラエル国家の人口は1000万人にも届かない。
人海戦術しかないと思ったサダトは水面下でイラクのフセイン大統とリビアのカダフィー大佐と連絡を取り合っていた。
だから、エジプト人のモハマッドがテロリスト、ジハードの戦士のリーダーになったのだ。
「今日のハムシーン下での訓練に耐えることで、みなさん一人一人で敵1000人を相手に出来るジハードの戦士になれたと言っていいでしょう」
40人のテロリストたちは、1人対10万人の能力を求められているとは、思ってもいなかったが、それは次の訓練で明確になるはずであった。