第九十九話 静かな金閣寺

『それでいい!それでいい!それでいい!』
訛の消えたお升は近寄り難い。
万世一系の雄仁でさえたじろく。
況してや、南野たけしのような万世万系では。
お升も藤原貞子という歴とした、万世一系ではないにしろ、五摂家のルーツだ。
元来、何処でどう間違ったのか、このような下賎の男が登場するのが間違っているのだが、夢の世界は広大無辺であるからして、差別など一切ない。
これもまた問題の呼び戻し現象に外ならない。
人の世とは複雑怪奇なものである。
頑として毅然とした態度で臨むお升でさえも、時には女の一面を覗かせる。
「そんでいいだあ!そんでいいだあ!そんでいいだあ!」
三回繰り返したら、どういう羽目になるか重々承知の上で、お升の情の深さが出てしまった。
途端にたけしが息を吹き返した。
お升の前で、全裸になろうとした矢先のことである。
鏡湖池にはまり手を振っていた観光客が怒鳴った。
「たけしは引っ込め!」
たけしは観客に弱い。
「たけしは引っ込め!」
観光客の罵声にたじろいだたけしが頭を垂れた。
『馬鹿が!』
雄仁は呟いた。
お升が、雄仁の脛をちぎった。
『馬鹿が!あれはお客ではないのに・・・』
雄仁はそれでも続けた。
お升が、再び雄仁の脛を強くちぎった。
「痛い!」
雄仁の叫びで、たけしは再び息を吹き返した。
たけしはまるで働き蟻のようであった。
踏みつけても、踏みつけても、一旦は死んだ振りをするが、すぐに息を吹き返す。
この生命力の恐ろしさが働き蟻の真骨頂だ。
再び、お升の前で褌ひとつまで辿り着いた、たけしが勝ち誇ろうとした矢先のことである。
「全裸ショーはご法度だ!」
鏡湖池の中から出て来た、ずぶ濡れの観光客が怒鳴った。
観客に弱いたけしが、更に職業柄の切り札を出されては、一巻の終わりだ。
褌の上から手を覆い、力弱く呟いた。
「本官はこれから小休止に入ります・・・」
「・・・」は何だ!
たけしといえども人間だ。
余韻を残したかったのである。
余韻は余韻を生んで辺りは静かに更けていくのであった。