第九十八話 お升参上!

暗中模索する雄仁を心配して、お升がやって来た。
「あんだあ!柄にも似合わないこどするなあ!あんだは、首さ稲妻はしらぜでいるんがお似合いだべ!」
雄仁とお升の接点は、首筋に走る稲妻である。
お升が、雄仁ばかりを相手にして、たけしをまったく無視して丁稚にしたのも、たけしから首筋に走る稲妻が見られなかったからである。
やはり稲妻は高貴な身分からでないと発することができないのであろうか。
「あんだあ!例の稲妻さはしらせてくれええ!」
お升から少しずつ訛が剥がれて行くのを感じた雄仁は嫌な予感がした。
無理やりでも稲妻を走らせるしかない。
雄仁は嫌々たけしの手をギュッと握った。
「何をするんですか!」
鳴咽の表情を浮かべながら、たけしは叫んだ。
既にたけしの手は雄仁の手に力を入れていた。
「ただそれだけさ!ただそれだけさ!・・」
そこで雄仁は止めた。
理由は自明の理である。
何とかもう一回言わせようとするたけし。
微妙な鬩ぎ合いである。
危険を感じたお升が割って入った。
「丁稚の身分で邪魔だては以ての外!消え失せろ!」
まさに江戸っ子の気風である。
たけしは己の身分に気がついて、品位の身分から手を引いた。
「あんだあ!もうよかんべ!」
お升の心情は無上至福の波打ち際のようであった。
雄仁はガリバー。
たけしはこびと。
『それでいい!それでいい!それでいい!』
お升が呟いた。