第九十三話 ニタッ

「チッ!」
苦虫を噛んだ雄仁は、心の中で地団駄を踏んだ。
『俺には、5月5日という「The Day」があるんだ!』
それに比べて、所詮一介の平役人の警官である、南野たけしほど気楽な立場の者は何処にもいない。
腹の中ではそう思っていても、それを口外できないのが万世一系の辛いところである。
「国民の平和と幸福を祈ります!」
南野たけしのような、阿呆な国民ばかりを相手にそう言わなければならないのだ。
一介の平役人こそ、衆愚を象徴しているのだ。
高級役人は、阿呆な平役人をいつも傍に侍らせて、衆愚を意識して、自分たちは選ばれたるエリートであると自負しているのである。
「自負」とは、他人に勝っても、自分に負けておる人間が持つ心情であることを知らない、こちらは馬鹿な奴なのである。
「たけし!」
終に頭に来た雄仁が久し振りに叫んだ。
遂にとは違う。
終にとは終わりだ。
丁稚のたけしは、さすがに焦った。
「どどどおおおどどどおおお!」
完全に我を失っている。
「どどどおおおどどどおおお!」
さすがの雄仁も学習している。
『これ以上はご法度だ!』
うしろポケットから千枚通しを、名うてのガンマンのように引き抜いた。
「チクッ!」
擬声音を発した途端、消防車の放水のような勢いで、たけしの尻から水のような血が飛び散った。
「あああああああああ!」
終にパターンが変わった。
そのままたけしは卒倒した。
『終に勝ったぞ!』
勝ち誇った雄仁は、来る5月5日の「The Day」に想いを馳せるのだった。
「Judah! This is the day between us!」
「Yes! This is the day!」
“タンタンタッタタタタッタタタタンタンタッタア!”
“ The longest day!The longest day!The longest day!The longest day!”

ニタッ

楽しい一日を始めよう

口を横に伸ばし ニタッとする

これで 楽しい一日のプログラムの開始

電車で横にいる人にも ニタッ

会社に着いたら ニタッ

いやな 上司にも ニタッ

変なおっさんにも ニタッ

嫌みな女にも ニタッ

家に帰ったら まず ニタッ

食事の間も ニタッ

一日の終わりの 寝床で 最後の ニタッ

夢の中でも ニタッ

朝 目が覚めたら 何もしないのに

あなたの口は勝手に横に伸び ニタッ

これが ほんとうの 楽しい 人生