第八十七話 そこで目が覚めた

銀閣寺から放り出された雄仁は独りぼっちだった。
哲学の道をしょんぼり歩いていると、一人の女性が話し掛けてきた。
「すみません、おひとりでしょうか?」
何とも意味ありげな言葉に、雄仁の心は色めき立った。
陰のようにまとわりつく警官のたけしのことが脳裏に浮かんだが、すぐに掻き消して、優しく返事した。
「ええ、ひとりですが?」
何だ!一体!これは!
雄仁はぎくっとして言い直した。
「ええ、ひとりですが・・・」
何だ!一体!これは!
なお雄仁はぎくっとして言い直した。
「ええ、ひとりです」
それでいいのだ!
怪訝な表情で聞いていた女性の表情が一変した。
「わたしに少し時間を頂けないでしょうか?」
例の稲妻が、例のところを走る寸前だった。
「どういうご用件でしょうか」
何だ!一体!これは!
今度は雄仁が怪訝な表情で言い直した。
「どういうご用件でしょうか・・・」
何だ!一体!これは!
真っ赤な顔をして雄仁は言い直した。
「どういうご用件でしょうか?」
それでいいのだ!
「銀閣寺は、この道をまっすぐ行けばいいのでしょうか?」
真っ青な顔をして雄仁は返事をした。
「そうです」
何だ!一体!これは!
頭に来た雄仁はでんでん虫だ。
何だ!これは!一体!
『順序が違う』
稲妻が頭に走った雄仁は、真っ黄の表情で言い直した。
「そうだ!そんなことでいちいち時間をくれなどと言い腐んな!」
女性は雄仁を黙殺して、うしろにいた若い男性に言った。
「あんだあ!あっじだでばよお!」
雄仁は観光シーズンの京都から逃げ出したくなった。
『・・・・・・・・・』
言わぬが・・・。
そこで目が覚めた!