第八十六話 哲学の道

「何だ!これは!」
銀閣寺は足利三代将軍義満の孫である八代将軍義政が建立した寺である。
戦国時代の幕開けを演出した、応仁の乱の元凶の無責任が生んだ寺である。
「何だ!これは!」
雄仁は仰天した。
金閣寺はまさに金張りの豪華絢爛な舎利殿であるのに対し、銀閣寺の舎利殿は実に質素なものだ。
しかも、西北に位置する金閣寺が鹿苑寺という正式名に対して、東北に位置する銀閣寺は慈照寺という名が正式名でありながら、東山と俗称されている。
「何だ!これは!」
雄仁は仰天した。
『これはおかしい!?』
大慈院で味わった人込みと同じ雰囲気を醸し出している。
大徳寺は金閣寺とは一線を画している。
『わかった!』
「わかった!」
雄仁は呟きにも似た、囁きにも似た、叫びを発した。
『東山は西山だったんだ!』
こんなことは口が裂けても口に出せないことを重々承知していた雄仁は、丁稚のたけしを呼んだ。
「東山は西山だったんだ!」
口に出すと、内容に問わず茶々を入れるのが、警官の習い性である。
「京都の西山は、平泉の東山だったんですか?」
丁稚のたけしが最初から警官の姿で登場した。
雄仁は思った。
『こいつは、本当に阿呆な奴だ!』
雄仁の声帯模写を読み盗ったたけしがニタッと大声で笑いながら、雄仁の耳元で囁いた。
「『こいつは、本当にいい奴だ!』と言ったんでしょう!」
雄仁は思った。
『こいつは、本当にいい奴だ!』
はたまたたけしが狂い出した。
丸裸になって、銀閣寺のまわりを走りまわる始末だ。
「『こいつは、本当に阿呆な奴だ!』と言われた!あああああははははは!」
哲学の道にたむろしていた人込みの中から罵声の嵐だ。
「金閣寺に帰れ!」
ふたりは呆然としていた。