第八十五話 銀閣寺

「???????もうやめろ!」
大慈院の人込みの中からの怒鳴り声に気がついた雄仁は、まわりを見渡したが、そこには誰もいなかった。
『誰が一体やめるべきなのだろうか?』
首筋から稲妻が走るどころか、首をひねるばかりだった。
お前は、現実を現実だと思っておるから、首筋に稲妻が走るだけではなく、首をひねる羽目になってしまうのだ。
傍に来て座るのじゃ!
さすればわかるであろう!
雄仁は、自分のまわりで起こっている出来事を映像だと思っていないのだ。
南野たけしが何か言わないと、わけがわからなくなるのである。
座席から、掛け声が掛かっていることに気がついていないのだ。
大慈院からの声は、実は座席からの掛け声だった。
それに気がつかない雄仁。
ハナも座席から声を掛けていたのであった。
ところがハナは便秘気味で、しょっちゅうトイレに掛け込んでいるだけだったのだ。
それを雄仁は、雲西にハナを奪われたと誤解していただけのことである。
便所にハナを奪われたのが真相である。
少し実態がわかり掛けて来た雄仁は、大慈院で精進料理を食べるのも忘れて、銀閣寺に向かった。
銀閣寺へ向かう途中に、目的の地の都屋があったからだ。
人間の思考は変な志向に向くことによって、正しい嗜好を見つけることができると言ってよい。
雄仁のまわり道も、その一環であるわけだ。
百万遍の交差点に辿り着いたら、懐かしい光景が目に入った。
『またまた脱線しそうだ!』
雄仁は自分のエゴに身構えた。
そうすると何も起こらない。
沈黙がしばらく続いたが、何も起こらない。
ずっと沈黙が続いた。
そうこうするうちに、銀閣寺に無意識の中で着いていた。
『しまった!』
雄仁は思った。
『またまた大慈院と同じで、人込みの中に来てしまった!』
まわりを見渡すと、何か懐かしい想いがする。
『危険だ!』
雄仁は目を瞑った。
「透明人間現わる!透明人間現わる!透明人間現わる!」
騒々しい喧騒がまわりを襲った。
「透明人間現わる!透明人間現わる!透明人間現わる!」
ますます人込みが大きくなる。
『やばい!』
品のない言葉をあえて吐く雄仁は、丁稚のたけしに助けを乞うたのだ。
「透明人間現わる!透明人間現わる!透明人間現わる!わあわあわあああ!」
様子が一変した。
「何だ!これは!」