第七十七話 大慈院の光景

金閣寺を出ることを決意した雄仁であったが、主人の橿原公威を傷つけた都屋に顔を出すには気が引けた。
平泉の今屋に戻りたいのは山山であったが、自分から家出をしただけに、それも気が引ける。
『どちらも気が引けるなあ!』
夕佳亭で荷物を纏めながら、嘆息をつく雄仁。
『気が引けた、と、気が引ける、とでは大違い!』
丁稚のたけしが叫んだ。
「よっしゃ!」
雄仁は決断した。
安曇野寺に向かうことにした雄仁が、先ず立ち寄った所が大徳寺だった。
大徳寺の総見院には鹿覚和尚がいる。
しかし、金閣寺と違って大徳寺は大本山でたくさんの院が建ち並んでいる。
『そうだ、大慈院に行ってみよう!』
大徳寺の大門を潜って、大慈院は総見院とは反対側にある。
左の一番奥に大慈院の門があった。
『やけに人通りが多いなあ!』
怪訝に思う雄仁だったが、好奇心が擡げてきた。
夢の中で一番重要なものが好奇心から蓄積した記憶だ。
万世一系の欠点は、好奇心が極めて欠落することだ。
物質的不満が皆無で代々生きてきた一族だけに、好奇心と感動がまるで退化してしまっている。
豊穣の最大の欠点である。
『無いものは幸いである』
イエスキリストの言葉(?)であるが、まさに真理である。
大慈院の門を潜った雄仁は仰天した。
「何だ!これは!」
すかさず丁稚のたけしも、雄仁の叫び声に呼応して登場した。
「何だ!」、「これは!」、「まったく!」
新しい台詞が入っている。
「何だ!」、「これは!」。「まったく!」
まだ中途半端な雄仁を、睨み返した丁稚のたけしが、またもや真裸になったのである。
「脱ぐのはやめろ!」
雄仁ではなく、人込みの中からの叫びだった。
ふたりは見つめ合っていた。
しかし、大徳寺は金閣寺とはまるで違う反応をした。
『やはり、金閣寺は・・・』
雄仁は決意を新たにするのである。