第七十六話 もうこれ以上!

遂に、金閣寺を出る決意をしたのは、極みの分裂症状に陥っている自分に気がついたのがきっかけだった。
当初は、南野たけしの所為だと思い込んでいたのだが、詰まるところ己の心の優柔不断さの所為であることがわかったということが結論だった。
ハナからの囁きが途絶えたのも、ハナが自分から雲西に心変わりがしたのではなかった。
自分がハナを潜在意識の中で避けていたのである。
潜在意識とは不可解なもので、好きなものは嫌いであり、悪いものは善いものであるらしい。
南野たけしの所為だと思っていた頃は、好きなものは好きであり、善いものは善いと思っていた。
しかし、それは自分の心の中に潜む優柔不断さが為せる業であったのだ。
優柔不断な人間は、好きなものは好きであり、善いものは善いとすっきり思い込んでいる。
決断力のある人間は、好きなものは嫌いであり、悪いものは善いとうじうじしている。
すっきりが優柔不断の特徴であり、うじうじが決断力の特徴であることを、凡人たちは理解していない。
すっきりが決断力の源であり、うじうじが優柔不断の源であると勘違いしているらしい。
真理とは、普遍的なものではなくて、個性的なものである真理を理解していないのが、どうやらその原因であるようだ。
遂に、金閣寺を出る決意をした雄仁は、やはり優柔不断の権化だった。
『ええい!この際・・・・』
この呟きこそが、優柔不断さを物語る台詞であった。
雄仁の呟きを察知した連中が、ざわざわ騒ぎ出した。
『何だ、これは!』
先ず、丁稚のたけしが第一声を水中で発した。
水中だけに声がこもるらしい。
『なああんだああ・・・、こおおおれええわああ!!!』
雄仁は聞き耳を立てた。
『なあんだべえさ、ごれわあ!』
雄仁の表情が明るくなった。
例の稲妻が少なくとも首筋を走った証拠である。
「お升さああん!」
呟くべきところを、叫んでしまった。
お升なら、『わあ!』とは言わない。
『はあ!』である。
それに気づかなかった雄仁が再び叫んだ。
「お升さああん!」
さあ、問題はこれからだ!
『・・・・・・・・・』
全員が固唾を飲んだ。
・・・・・・・・・・・。
『うん!?』
全員が疑問を抱いた。
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「夢の中の世界に、土足で入って来るな!」
警官のたけしが警告を発したのだ。
もうこれ以上書けない!