第七十四話 決断の時

京の都の南にある万世一系の想いが溜まっている伏見という不思議な場所をまざまざと見た雄仁は、ある決意をして金閣寺に戻って来た。
雲西和尚が思い詰めた表情で、雄仁の帰りを待っていた。
ハナを雲西に奪われた怨みも消えかけていた雄仁だったが、雲西の姿を見て再び蘇った。
舎利殿の中から、鏡湖池を挟んで雄仁の様子を窺っていたが、雄仁は知らぬ振りをして、夕佳亭に向かった。
「お上。お待ちなされ!」
雲西が叫んだ。
こういった事態になると、万世一系の血が本領を発揮する。
「お上。お待ちなされ!」
ますます調子に乗る雄仁。
頭に来る雲西だが、出家坊主だけに、味噌と糞の分別はある。
「お上。お待ちなされ!」
我慢強く繰り返す雲西。
京が平安京の時代は、まさしくこういった事態が、あっちこっちで織り成されていたのである。
『ああ、あの頃がえがっだなあ!』
訳のわからない訛まで飛び出す始末の雄仁は、完全に調子に乗っていた。
「おい、そこのん!ええ加減にせんかい!」
坊主の袈裟を脱ぎ捨てた雲西が怒鳴った。
少し怯む雄仁が隙を見せた。
「おい、そこのん!ええ加減にせんかい!」
夢の癖は繰り返すことだ。
三回繰り返したら、夢に間違いない。
ふたりの間に目に見えない火花が散った。
雄仁も夢かどうかを伺っている。
雲西も夢かどうかを窺っている。
伺いと窺いではエネルギーの波長がまるで違う。
勝負は最初から決まっていたが、万世一系の弱点が曝け出された。
どっちが本間やねん!
雲西は呟いた。
『本間家は坂田一の豪商だ!』
お前なにを言うてんや!
その隙を雄仁は逃さなかった。
隙につけ込むのは十八番であるが、そこは品位の世界であるから、十七番に止めているのが慣例であった。
「おい、我!何を曝してるんや!」
遂に雲西も切れた。
呟くことも忘れるほど、自分を忘れてしまった。
「ええ加減に曝せ!」
ここが、万世一系にとっては、運命の分岐点であるのが歴史の常であった。
雄仁!どうする!
『ハナ!・・・・・』
それはアカン!
『郁子!・・・・・』
それもアカン!
『お升さん!・・・』
うん!?
「丁稚のたけし!・」
よっしゃ!