第六十五話 昼下がりの三人

『何が許せんだ!』
突然、今屋の丁稚のたけしが叫んできた。
夢か現か、意識が朦朧とした中で、雄仁は目が醒めた。
『許せん!』
丁稚のたけしになると、雄仁は強気に出る。
何故だか、わからないが強気に出る。
そうすると、もともとが公僕の警官上がりのたけしだけに、強気に出られると弱腰になる。
公僕という連中は、その名が示す通り、奴隷の性から抜け切れない生き物である。
締めつけられた人間のことを、公僕と言う。
真に強い人間は、弱い人間に哀れみをかける。
真に弱い人間は、弱い人間に畳かける。
雄仁は万世一系の血筋である。
たけしは万世万系の雑種の極みの血筋である。
天と地ほどの差がある血筋は争えない。
『許して下さい!』
すぐに乗り換えるたけしは、悲鳴にも似た叫び声をあげた。
お上は情に脆い。
『余に計らえ!』
訳のわからないことを言う雄仁が好きなたけしは、感激した。
『許して下さい!』
同じことを繰り返す。
下賎の輩の特徴は、同じことを繰り返す性癖を持っている。
子供のことを餓鬼と呼ぶのは、子供の本性が下賎であるからだ。
『よっしゃ!よっしゃ!よっしゃ!』
例の3回の繰り返しが始まった。
『許して下さい!』
下賎のたけしの本領を発揮しだした。
これで3回だ。
すると突然、雄仁の首筋に例の稲妻が走った。
こうなったら、たけしは有頂天だ。
上着は脱ぎ捨て、警官の姿に戻って、雄仁に敬礼した。
「本官は、今から小休止に入ります!」
更に、稲妻が首筋から下腹まで走った。
ふたりは肩を並べて、伏見の界隈を物色しだした。
『あんだだじ!何をやってんだべえ!』
お升が、あとからふたりを追いかけて叫んだが、ふたりは気づかない。
「ドカン!」
強烈な音が伏見の桃山御陵に鳴り響いた。
「何だ!何だ!何だ!」
またもや3回だ。
「ドカン!ドカン!ドカン!」
もうどうしようもない悪循環だ。
雄仁とたけしとお升の、昼下がりの伏見だった。