第六十一話 七の月の十七の日

しばらく金閣寺から一歩も出ない日々を送っていた雄仁だったが、六芒星の事件がきっかけで、西大路から北大路界隈を散策するようになった。
金閣寺は西大路。
大徳寺は北大路。
その間に千本通りがある。
千本もないのに千本通り。
これが京という都の傲慢な長所。
ユーラシア大陸の西の果てにある平安京。
ユーラシア大陸の東の果てにある平安京。
東の平安京から陽ば昇り、西の平安京に陽が沈む。
雄仁はふと気づいた。
『そうだ、京都に陽が昇りはじめるのは、東大路からだ!東大路の中心に弥栄神社がある。今では八坂神社と名を変えているらしい』
そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。
ちょうど、その日は、七の月の十七の日だった。
大洪水から人類が新しく生まれ変わった日である。
丸太町通りと烏丸通りの交差点に面した処に、箱船会館というビルがある。
雄仁は先ず、箱船会館を訊ねてみることにした。
のんびり歩いていると、遠くから懐かしい音の響きが聞こえてきた。
『エンヤラヤー!エンヤラヤー!エンヤラヤー!』
祇園祭りの鉾を引く掛け声だ。
『エンヤラヤー!エンヤラヤー!エンヤラヤー!』
六百年の時空を超えた、懐かしい音の響きだった。
『エンヤラヤー!エンヤラヤー!エンヤラヤー!』
箱船会館から聞こえてくる音だった。
『エンヤラヤー!エンヤラヤー!エンヤラヤー!』
河原町通りを北上する鉾から聞こえてくる音でもあった。
『エンヤラヤー!エンヤラヤー!エンヤラヤー!』