第五十九話 六芒星の呪縛

「何ゆえ、お上は京を捨てられたのでしょうか?」
雲西が鹿覚に自問した。
鹿覚が雲西に自答した。
「源頼朝が、鎌倉に幕府を開いたのは、まだ許される・・・」
雲西は肯いた。
「足利尊氏が、京都に幕府を開いたのは、お上に遠慮したから、お上のお膝下に幕府を開いたのだ・・・」
雲西は肯いた。
「ところが三代将軍足利義満は、よりにもよって、花の御所なるものを、お上のお膝下の京につくったのは、許すまじき行為である・・・」
雲西は肯いた。
「京から花の御所を消滅させない限り、お上は決して京に戻られることはないであろう・・・」
雲西は躊躇った。
間髪を入れずに雄仁が割って入った。
「ではわたしが、花の御所を消滅させて見せましょう!」
鹿覚が雲西に無言の指示をした。
「・・・・・・・・・・」
懲りずに雄仁が続ける。
「あの舎利殿を、お上の怒りで燃え尽きさせればいいのです!」
鹿覚が雲西に更なる無言の指示をした。
「・・・・・・・・・・」
突然、お升が雄仁に囁きかけて来た。
「あんだ!いい加減にするんだあああ!」
雄仁はお升に弱い。
「・・・・・・・・・・」
今度は雄仁が沈黙してしまった。
「あの男を使えばいいのじゃ・・・・」
間髪を入れずに鹿覚が割って入った。
「あの男を・・・・・」
雄仁はこの言葉に敏感だ。
「あの男?」
疑念の想いが雄仁の胸の中を充満した。
突然、平泉にいる筈の、例の堕落警官が現れた。
「本官は、いまひと休み中であります!」
何を言いたいのか、雲西も鹿覚もまるでわからない。
わかっているのは雄仁だけである。
南野たけしは、雄仁に目を向けたが、雄仁は依然沈黙を保っている。
雲西と鹿覚を支点にした三角デルタではなく、四角平行四辺形が形成された。
そうなると、雄仁も黙っていられない。
「仕方ないなあ!もう・・・・」
雲西は遂に雄仁に言った。
「お前、何言うてんや!」
雄仁は雲西の言っている意味がよくわかっていた。
しかし今度は、南野たけしがわからない。
四角平行四辺形が脆くも崩れようとしていた。
南野たけしに救いの手が差し伸べられた。
刑事の平野洋介が突然登場したのだ。
「お前、何言うてんや!ええ!」
刑事独特の言いまわしだ。
そうなると雄仁も黙っていられない。
精神科医の麻生鎮も登場してきた。
これで六芒星の呪縛に全員嵌ってしまった。