第五十四話 竹の音

「和尚!」
雄仁は怒鳴るような口調で、門の外へ逃げ出した雲西に叫んだ。
しかし雲西は、一顧だにせず三千院に通じる道を駆け上って行った。
「鹿覚和尚!」
もう一度、雄仁が叫んだ。
その言葉で、雲西は突然立ち止まった。
『やはり春王だったんだ!』
雄仁は確信した。
雲西は鹿覚だった。
鹿覚は、もともと藤原一郎という名前だった。
いや違う!
藤原一郎は、雲西の元の名前だった筈である。
そんなことはどうでもいいことである。
問題は藤原一郎が、なぜ春王であるかだ。
藤原一族は天皇家の外戚に当たる血筋であるのに、そこに源氏の血が関わってくる筈がない。
大徳寺と金閣寺。
天皇家と源氏。
藤原一族と源氏。
その橋渡し役をしているのが、雲西であり、鹿覚であったのだ。
「パン!パン!バババババ!パン!」
お前何を言うてんや!
雲西と鹿覚の化けの皮が剥がれるときの叫び声なのだ。
「パン!パン!バババババ!パン!」
春になると、たけのこがその身をぐんぐん天に向かって伸ばしてくる。
雪の重さに抑えつけられていた、その身を弾け飛ばすように伸ばしてくる勢いが、化けの皮が剥がれるときの叫び声となって世間を仰天させる。
「パン!パン!バババババ!パン!」
雲西と鹿覚が、遂にその正体を現わした。
冬も終わりが近づいて来たらしい。
春がやっと間近にやって来たらしい。
その自然の叫びが、激しく世間を仰天させる。
「パン!パン!バババババ!パン!」
竹の子が背伸びをする音が、世間を仰天させる。
「パン!パン!バババババ!パン!」
雲西が戻って来て、雄仁の前で平伏した。
「お上!お許しを!」
貞子の喚きか、春王の喚きか、雄仁にはわからなかったが、そんなことはもうどうでもよかった。
『オヒトちゃん!オヒトちゃん!オヒトちゃん!』
ハナがやっと戻って来た。