第五十二話 久しぶりのハナ

再び雄仁は金閣寺の世話になることになった。
雲西から聞いてわかったことなのだが、八瀬の大原にある安曇野寺は金閣寺の元寺に当たる由緒ある寺だったらしい。
ハナが安曇野寺の墓地に埋葬されたのも、ハナの前世が後深草御陵に祀られている後円融天皇の后と知っての計らいであった。
もちろん雲西は、雄仁の前世が後円融天皇であることは百も承知である。
「三日に一度は大原の安曇野寺に参りますので、一緒に行きましょう」
あれ以来、雲西の雄仁に対する態度はまったく変わっていた。
雄仁も、これから先にどんなことが起こるのか、ある程度承知していた。
「わたしが、金閣寺に放火してもいいのですか?」
雄仁は敢えて訊いてみた。
「それは昭和25年の出来事でしょう?」
雲西は平然と言った。
「今が昭和25年でしょう?」
雄仁も負けていない。
「今は康暦元年(1380年)でしょう?」
雲西はその名の通り、雄仁を雲に巻こうとした。
康暦元年は、室町三代将軍・足利義満が室町にあった西園寺家の土地を没収したあとに花の御所を造営した年である。
京都中の公家の屋敷にある花をすべて献上させたことから、花の御所と呼ばれていた。
雄仁も負けていない。
「今は昭和60年(1980年)でしょう?」
康暦元年(1380年)からちょうど600年経過した、今ここのことを言っているのだ。
「なかなかのものですな!さすがはお上の魂を受けられただけのことはありますな!」
雲西も感心した。
世間での雄仁の評価は、優柔不断の無責任男としか映らないのだが、出家して俗世の垢に対する免疫力がなくなっている雲西から見ると大した品性だと思えるのである。
「では安曇野寺に参りましょうか」
雲西は、後深草御陵の住持になった積もりで、雄仁に尽くすことを決心したのである。
その時、久しぶりにハナからの囁きが聞こえた。
『オヒトはん!オヒトはん!ようお帰り!』
平泉では東北弁も喋っていたハナだったが、雄仁が京都に戻ってくると、さすがに京都弁に変えて囁いてくるのだった。
『ああ、久しぶりだああ!』
雄仁はハナに対する返事もせずに、京都での対面を懐かしんでいた。
『あああ!オヒトはんが、もうじき安曇野寺においでになるんやわ!あああオヒトはん!』
ハナも興奮して雄仁に囁きかけることも忘れて、囁きの中で独り言を言っているのだった。
久しぶりのふたりの対面は、もう間近に迫っていた。