第四十七話 昨日の懐かしさ

「あんだ!どうしても行くだべか?」
店の看板娘が雄仁との別離を惜しんだ。
うしろ髪を引かれる想いで、つい優柔不断な性癖が出そうになるのを必死で抑える雄仁は、郁子やお升のこともすっかり忘れて、『今、ここ』に没頭していた。
優柔不断に陥るなら看板娘が傍にいるが、優柔不断に敢然と立ち向かっても看板娘が傍にいる。
一体、郁子やお升の居場所は何処にあるのか。
それでも、必死に自分を抑える雄仁という人物は、一体何者であるのだろう。
「京都に帰るんだ!」
必死に叫ぶ雄仁。
「ひらいずみもきょうとだ!」
必死に引き止める看板娘。
ふと気がつくと、汽車に飛び乗っていた。
車窓から富士山が奇麗に見える。
『前にも同じようなことがあった記憶がある!?』
前にも同じようなことがあったような記憶?
前とは一体いつの前であったのか。
ついせんだっての話ではないか。
「福島の盤梯山は、会津富士と言われるだけあって美しいねえ!」
隣の席に座っている老人が相手の老婆に言った。
『前にも同じようなことがあった記憶がある!?』
ここで疑問と感嘆は正しい。
時空の世界の中で時間だけが超えたのである。
「まあ、この前の若い人じゃないかのう!」
雄仁のことを思い出した老婆が言った。
「ブタのカップルだったのが、人間のカップルになったのですね!」
それだけが、強烈なイメージとして雄仁の脳裏に残っていた。
「あんだあ、ながながじょうだんがきづいだなあ!」
傍の老人が微笑ながら言った。
「冗談じゃないですよ。本当なんだから!」
雄仁の血の良さが出た。
「白河で降りられた若いカップルだったでしょう、あなたたちは?」
そこまで言われたら、いくら年寄りでも思い出すしかない。
「そうじゃったなあ・・・郡山でかしわ弁当を食べていなすった品のいい青年じゃった・・・・・。もうあれから・・・・」
老婆が何十年も前のことのように思い出して懐かしんでいる。
しかし、雄仁はあれから歳はひとつも重ねていないのである。
「懐かしいですね!」
雄仁もそう思った。
「懐かしかねえ!」
老夫婦もそう思った。