第四十六話 この際どうでもよい!

「あんだあ!何だでいっでえ!」
風俗娘が悲鳴に近い叫び声をあげた。
雄仁にとって至極当然のつもりであったが、娘にとっては度肝を抜かれるような行為をする雄仁が化け物に見えたらしい。
雄仁も娘の悲鳴にも似た叫び声に逆上した。
「何をいっでんだあ!おめえ!前どおなじごどだあ!」
娘はますます雄仁の狂暴性が狂気から発するものであることを知るに至って、全身に震えが襲って来たのを自制することができないでいた。
「まえどどどど・・おなじごどだととととおおおお!」
震えが止まらない。
前回、丁稚のたけしと一緒にこの店にやって来たときのことを、雄仁は完全に失念していた。
郁子が家出したのを探しに、丁稚のたけしと平泉の駅まで行くつもりだったのが、途中で風俗店の前を通りがかり、丁稚のたけしの物欲しそうな表情に、つい情にほだされて店に一緒に入ったところまでは憶えていたが、その後のことはまるで桃源郷に埋没している状態が続いていたのである。
「あんだあ、ずっとあの変態警官どおれがやっでるどころさ見でよろこんでいるだけだっだじゃねえか!このお、うずらどんがじ!」
雄仁が怯む姿を見て、娘は真っ赤な顔をして怒りだした。
その瞬間、雄仁は自分の業というか性の罪深さに気がついた。
『そうだったのか・・・俺は変質狂だったんだ!郁子にも酷いことをしていたのかも知れない・・・』
そう思うと居ても立ってもいられなくなるのだった。
『ここで、故の木阿弥になってはおしまいだ!』
ぐっと我慢することにした。
これが万世一系の本領発揮である。
「すまなかった!すまなかった!ぼくの勘違いだった!ごめんね!」
雄仁は娘に素直に詫びた。
娘は、品のない下劣な警官に比べたら、雄仁の方に好感を持っていただけに、怒りはすぐに収まって、その反動で恋しさが募った。
「あんだあ、何があっだか知らねえが、おれさかわいがっでやるっからな!」
雄仁は思った。
『今日一日だけは、仕方ないなああ!』
夢にまで観た桃源郷にこれからいざという時だった。
「何だあ!これは!」
丁稚のたけしが怒り心頭の表情で店に殴り込みをかけてきた。
「このおなごはおれのおなごだあああ。あああぁぁぁ!」
勢いよくふたりの部屋に乗り込んだ丁稚のたけしだったが、雄仁を見た途端に勢いが崩れていくのだった。
やはり品の違いが原因だった。
「何を怒っているんだ!こっちに来て一緒に・・・。ほれ一緒に・・・」
雄仁の優雅な誘いに掛っては、下賎の丁稚のたけしなど石ころである。
「そうですか。では本官も、お言葉に甘えて・・・へへへ!」
このへへへ!が品がない。
そう思う雄仁だったが、この際そんなことはどうでもよかった。