第四十二話 男というものは!

郁子が義幹(よしもと)を置き去りにして家出してしまった。
理由は誰もわからない。
だが置き手紙をしっかりと残していた。
「雄仁さま。
わたしは息苦しくて、これ以上耐えられません。
特に、南野たけしが警官を辞してまで今屋の丁稚奉公に入ったのは、わたしには容認しかねます。
ひょっとしたら義幹の父親かも知れないのに・・・。
義幹は確かに、あなたが不審に思うようにあなたの子であるかどうか定かではありません。
しかし、これだけはきっぱりと申しておきたいのです。
先ず、小樽運河のそばの倉庫にふたりが閉じ込められた件ですが、わたしは決して暴行など受けていません。
あなた以外の男性に抱擁された覚えは一切ないのです。
ところが、あなたから抱擁を受けたのも、美濃での一件以来ありません。
しかし、わたしは子供を授かりました。
すべては事実です。
もうこれ以上耐えられません。
息苦しくて仕方ないのです。
暫く独りになります。
義幹は、お升さんにとても似ていますので、あの方の世話を何卒よろしくお願い致します。
支離滅裂なことを書いたようですが、ここに書かれてあることは、天地神明に誓って真実であると申しあげておきます。 郁子」
郁子の置き手紙を読んだ雄仁は、お升を呼んだ。
「お升さん!お升さん!」
慌てふためいている様子の雄仁に気がついたお升は淡々と言った。
「雄仁さん、どうしたのですか?」
お升が標準語で喋っている。
こんな時のお升は冷静な時である。
雄仁はそれでは困る。
「郁子が家出したんだよ!」
自分の妹が家出したと聞いては、お升も黙ってはいられない。
「ほんどがあ?あんだ?」
やっぱりお升はこれが一番だ。
「はやく、交番にいっでやらなぎゃあならんでえや!」
そのとき、丁稚のたけしが待ってましたとばかりに登場した。
「本官が捜査いたします!」
「あんだあ、なにいってんだべえ?あんだはもう警官だなかべえ!」
丁稚のたけしはお升には弱いらしい。
「いえ、こんなときのために、制服はいつも用意しております」
そう言うや否や、丁稚のたけしは上っぱりを脱ぎ捨てた。
何と、下には警官の制服を着ているではないか。
「あんだ!てえしたもんだあ!」
感心しているお升の様子を見た雄仁の首筋に稲妻が走った。
「あああああ!」
雄仁も息苦しくなってきたようだった。
ふと気がつくと、雄仁は警官の制服姿に戻っている丁稚のたけしの後を尾いて、郁子の行方を探しに平泉駅の方に歩いていた。
ふたりが一緒に歩くと、必ず例の風俗店の前を通ることになる。
「仕方ないなあ、もう!」
「そうですな!本官もちょい休止いたしますか?」
ふたりは郁子の家出のことも忘れて風俗店の中にいそいそと入って行った。