第三十七話 品位と官位

ハナと郁子は、第百代後小松天皇の父親・北朝第五代後円融天皇の后である藤原厳子を前世に持ち、ハナから郁子へと現世輪廻転生をした。
お升は、後円融天皇の父親で北朝第四代後光厳天皇が嘗て寵愛した女御でありながら、後光厳天皇の指図で、室町幕府三代将軍足利義満が幼名・春王の頃に閨事の相手として送り込まれた、藤原厳子の実姉・貞子であった。
春王の頃から天狗という仇名をつけられた程、室町幕府三代将軍・足利義満は化け物のような存在だった。
甥でもある春王の元服の折り、室町幕府の征夷大将軍・足利義満の名を与えたのは、叔父でもある後光厳天皇であったが、天狗の異名を持つ春王の器量の大きさに危惧を抱いて、貞子を遁甲(とんこう)として送り込んだ。
しかし貞子は、後光厳天皇から疎んじられたと勘違いして、春王に寝返ったのである。
そして、後光厳天皇の皇太子である緒仁こと後の後円融天皇の后となった実妹・藤原厳子をも、春王の閨事に巻き込むのだった。
貞子の魂は、極めて複雑なまま、輪廻転生を繰り返し、今屋の主人・藤原一郎の嫁・お升に転生していたのである。
「あんだ!えがっだ!」
雄仁に女の業を曝け出す貞子である。
「あなた!何を言ってらっしゃるの!」
主人・藤原一郎に対する二品尼・貞子である。
前世では、天狗・春王に、天下のみならず天上まで昇りつめる梯子を用意したのは、他ならぬ藤原貞子であり、二品尼・貞子であった。
天皇家にしか与えられない品位。
帝は一品位。
貞子は帝に次ぐ二品位の位を与えられたのである。
一方、天下を制した征夷大将軍足利義満は従三位であり、天皇が住む内裏に参上することさえ許されなかったのである。
官位は品の違いを意味していたのである。
皮肉にも現世では、春王の仇敵・後円融天皇が転生した平岡雄仁に貞子は肩入れすることになる。