第三十話 いざ!越中屋

お互いの夢度を確認し合った雄仁と郁子は、越中屋に乗り込むことで、死中に活を求めることにした。
「お父さんと対立する羽目になるかも知れないのに、それでもいいのかい?」
郁子の父親である源春雄こそ不倶戴天の敵・足利義満であることを、郁子に告白できない雄仁だった。
「そんなこと気にしなくてもいいのよ。わたしと父との関係は肉体上の話だけど、雄仁さんと父は従兄弟でありながら、怨敵だったんでしょう?」
意外な郁子の告白に雄仁は驚きはしたが、感動もした。
「知っていたのかい・・・。君のお父さんの前世と僕の前世のことを・・・」
郁子がそこまでのことを知っているなら、ハナから聞いた郁子自身の前世が、ハナと同じ、藤原厳子であることを知っての上であったのか、雄仁は迷った。
「だって、雄仁さんが蝦夷屋に逗留していたとき、父から聞いていたもの。徳子も、和子も一緒に聞いていたから、雄仁さんに興味を示したんだと思うわ」
雄仁は躊躇っていた。
「君もそれで僕に興味を持ったのかい?」
ジャブを出してみた。
「わたしは、前世がどうのこうのっていう話にはまったく興味なかったの。ただ雄仁さん個人に興味があっただけ・・・」
郁子は自分の前世には、まだ気づいていない様子だった。
『言っていいのか・・・どうだろうか・・・』
雄仁は迷った。
『オヒトちゃん!オヒトちゃん!』
ハナからの久しぶりの囁きだった。
『郁子さんは、自分の前世が藤原厳子だということは知らないわ。あたしが死んだ後に、現世輪廻をしたのだから・・・』
ハナが以前言っていた、現世輪廻転生のことを思い出した。
『そうか!郁子さんの身体に厳子の魂が乗り移ったのは、あの時のことだったんだ!』
札幌の雪祭りを見物するため薄野に出かけた折り、郁子からホテルに誘われ、郁子のことを内心気になっていた雄仁はついその場の勢いに流されてしまった。
確固たる意識なしに行動をすると、必ず業(カルマ)を積む結果を生む。
ちょうどその時、京都の病院にいたハナが息を引きとり、滅びた肉体から抜け出たハナの魂が時空間を超えたタイムトンネルの中に入っていた。
雄仁に対する圧倒的な想いのハナの魂は時空間を超えて、雄仁が抱いている郁子の肉体に転生してしまったのである。
『だから、郁子さんにはそのことをまだ言ってはいけない・・・』
ハナは強い波動で雄仁に囁いた。
「それでもいんだね?」
郁子は黙って頷いた。
越中屋の前に立った雄仁は、平泉の今屋の前で立った時のことを思い出していた。
『誰か救いの手を差し出してくれる者が出てこないか!』
今屋の前に立った時、今屋の丁稚風の少年と番頭風の男が救いの手を差し伸べてくれたことを思い出した。
『平泉駅の交番のあの警官が出てきてくれないか!』
雄仁の性格は、前世の後円融そのもので、依存心が極端に強い。
ハナは憂慮した。
『オヒトちゃん!オヒトちゃん!』
雄仁はハナの囁きに胸を傾けた。
『おカミとまた同じことをしては駄目!そんなことをしたら、また春王に郁子さんを寝盗られることになるわ・・・。そんなことになったら、あたしとあなたの関係になって、それこそ郁子さんは地獄を見る羽目になる・・・』
ハナの言っていることを、雄仁は身に染みるほどわかっていた。
「郁子さん!ここは僕がひとりで行くから、君はホテルで待っていてくれないか?」
雄仁が言う間もなく、郁子は越中屋の中に入って行った。