第二十七話 真暗闇のふたり

ふたりのチンピラは郁子と雄仁を小樽運河に面している倉庫の中に閉じこめて、どこかへ消えて行った。
「雄仁さん!大丈夫?」
延々数時間に亘る陵辱にも耐え、気丈夫にも正気を保っていた郁子だったが、下半身をめった突きに遭った雄仁は、全身に紫色の斑点が浮き出ていた。
まさに死への行進曲だ。
「ルンルン・・・ルンルン」
独り言を呟く雄仁にも、郁子の囁きは聞こえるようだった。
「雄仁さん!こっちよ!」
真暗闇の中で二人の声だけが唯一の手探りの手段だ。
「ルンルン・・・ルンルン」
無意識としか思えない雄仁の呟きにも、郁子は健気にも応えた。
「雄仁さん!こっちよ!」
意識と無意識の狭間の意識寄りに行こうとする雄仁だった。
「ルンルン・・・ルンルン」
下半身がズクズキするにも拘らず、郁子は縛られた足首の縄を必死で解こうと頑張った。
「雄仁さん!こっちに来て!」
郁子の「こっちに来て!」という言葉で、例の首筋に稲妻が走り、意識に元気が出かけてきた雄仁だった。
「ルンルン・・・ルンルン」
頼りにならない雄仁に声を掛けながらも、やっと足首の縄を解くことに成功した郁子は、血だらけになっている縄を手にして呆然とした。
「雄仁さん!!こっちよ!!」
郁子の口調が叫び声だったのを、無意識の中で気づく雄仁も、やっと自己の意識の狭間に波が表れた。
「ルンルンルン!ルンルンルン!」
お互いに性の区分けができない身になったかも知れない衝撃の中でも、郁子は雄仁を呼び続けた。
「雄仁さん!こっちに来て!」
郁子の「こっちに来て!」という言葉で、再び例の首筋に電気が走った勢いで雄仁は正気に戻った。
「ルンルンルン!郁子さん!ルンルンルン!郁子さん!」
雄仁の口調が変わっていくことに意を強くした郁子は、一気に真暗闇の中で立ちあがった。
急に目眩が襲ってきたにも拘らず、郁子は自分の手を真暗闇の中で差しだした。
「雄仁さん!こっちよ!」
人の声というものは、精神状態で色調が変わる。
郁子の声の色調が変わったのを雄仁はしっかり掴んだ。
「ルンルンルン!郁子さん!ルンルンルン!郁子さん!ここだよ!」
遂に、二人の手が真暗闇の時空間の中で交差した。
その瞬間、真暗闇の時空間が五次元世界に誘われた。
お互いの手を引き合う様は、まるで太陽と月が、地球という暗闇を挟んで、引力と斥力を及ぼし合っているようだった。
雄仁が太陽なら、郁子は月である。
それなら、ふたりのチンピラは地球である。
地球は、太陽と月の位置で真暗闇にもなるし、真っ赤にもなり得る。
チンピラもまんざら捨てたものではない。
真暗闇のどん底でも一点の灯りがあると、人間は生きていけるものだとわかったふたりは、お互いの手を強く握るのだった。