第十六話 決心

久しぶりに京都に帰った雄仁は、都屋の主人の橿原公威の部屋に報告に行った。
「いやあ、帰ってきたか!首を長くして待っていたんだ!」
雄仁は嫌な予感がした。
「何かあったんでしょうか?」
主人の視線を逸らし、身を引くようにして小さく呟くように言った。
理由はわかっていた。
蝦夷屋の郁子が、自分の留守中に都屋を訪れた。
札幌での郁子との出来事がばれたのではないかという不安が脳裏を横切ったからだ。
「蝦夷屋の娘さんのことで君にちょっと訊きたいことがあったんだ」
『やっぱり!』
自分から喋れば、ボロが出ると思った雄仁は、主人の様子を窺がった。
「蝦夷屋さんの娘さんと言いますと・・・」
何食わない様子で下向き加減に言った。
「郁子さんという娘さんが、やって来てね・・・君のことを痛く気に入ってるようで、君の話題ばかりして帰っていかれたよ」
雄仁は黙って頷くようにして聞いていた。
「ただそれだけなんだけど、その郁子さんが帰られたすぐあとに、蝦夷屋の主人、源さんから電話があって、君を郁子さんの入り婿として迎えたいという申し入れを受けたんだが・・・」
「ええ、何だって!」
最近の口癖がつい出てしまった。
主人の橿原公威は不機嫌な表情になった。
「すみません、つい・・・」
「つい、何なんだ?」
突っ掛るように主人の橿原公威は言った。
「すみません・・・」
黙ってしまった。
「少し考えさせてください」
そう言って、主人の本音を確かめた。
主人の橿原公威は雄仁の返事で急に機嫌がよくなった。
自分の部屋に戻った雄仁は、畳の上に仰向けになった。
長旅の疲れから、つい居眠ってしまった。
『オヒトちゃん、オヒトちゃん・・・』
ハナからの久しぶりの囁きだった。
『蝦夷屋の主人は春王よ、だから誘いに乗ってはだめよ・・・』
ハナに雄仁は応えた。
『だけど、都屋の主人も同じ春王じゃないですか・・・』
ハナは黙っていた。
『僕は、どっちみち春王の呪縛から解かれないのなら、蝦夷屋の方がいいと思うよ』
黙っていたハナの囁きが再び始まった。
『確かに、都屋の主人の橿原公威は陰険な人間だわね・・・。それに変な癖もあるし・・・』
『そうだろう、僕はもうこれ以上ここに居るのは我慢できないよ』
雄仁はハナに訴えた。
『ここには、ピチピチした肉体をしている郁子さんもいないからね』
ハナが珍しく皮肉を言った。
雄仁は黙っていた。
『郁子の肉体も捨てがたいが、今屋のお升には歯が立たない・・・』
呟いた。
『ごめんなさい、オヒトちゃんには、お升さんもいたわね、ごめんなさい・・・・・。じゃあ蝦夷屋に行きなさい』
ハナの応えを欲しかった雄仁は決心した。
『よし、蝦夷屋の入り婿になろう・・・』