第百四十八話 仮釈放

五人の「終身刑委員会」のメンバーは、委員長の近藤阿呆麿とその腰巾着以外が、藤原たけしの仮釈放面談試験に合格の結論を出した。
“律法学者たちとファリサイ派の人々、あなたたち偽善者は不幸だ。”
郁子が朗読した、「Cascade 666 非難」の冒頭に必ず引用される、この言葉に彼らは何かを感じたらしい。
狩隈典子。
鷹司家の血を引く女弁護士である。
ゆくゆくは京都府知事選挙に立候補するつもりでいるらしい。
10年前までは、日本の弁護士の数はせいぜい2万人程度だったが、今では10万人を超えていると言われている。
契約社会のアメリカでは弁護士の数が100万人に近づこうとする勢いで、拝金主義化と弁護士の数が比例しているのだ。
医者と弁護士が、聖職者の立場を捨てて、守銭奴に成り下がった典型的な職業だが、守銭奴に成り下がった途端に、その数は倍増されていく。
日本の医者の数は24万人いると言われており、人口500人につき一人の医者という数もべら棒だが、病院の数は、人口比で欧米先進国の10倍もある。
嘗ての聖職者がこぞって守銭奴になり、お金持ちのカテゴリーが様変わりしているのが、アメリカや日本という拝金主義の極みに達している国の様相だ。
そんな国家・社会の変化の中で、ごきぶりのように生命力旺盛なのが、特権階級の連中であり、日本では藤原一族が依然強い力を持っている。
武内夙法。
1200年間、皇室の権威に隠れながら権力を縦にしてきた藤原一族の高祖・中臣鎌足に滅ぼされた蘇我一族の数少ない血を引いた人物である。
全国に20数万社あると言われている神社を実質支配している。
伊勢神宮が全国の神社の総宮と言われているが、長い歴史の中で形骸化していった中で、強大な影響力を持っている。
諏訪頼房。
出雲大社の流れを汲む海部・尾張・諏訪一族の総帥である。
茅野という田舎に引きこもっているが、血統では天皇家に匹敵、若しくはそれ以上の伝統を有する名家の血を引き、法務省事務次官を歴任した経験を持ち、全国弁護士協会の会長をしている。
この三人が、藤原たけしの仮釈放を承認したのだ。
近藤阿呆麿とその腰巾着二人対狩隈典子・武内夙法・諏訪頼房三人で、決着がついたのである。
面談試験の3日後、藤原郁子に委員会から通知が来た。
郁子は複雑な気持ちで、通知状の封を切った。

「藤原 郁子 殿
先般実施した終身犯・藤原たけしの仮釈放に関する、終身刑委員会の面談結果が出された。
藤原たけしの終身刑は、他の終身犯とはその趣旨に於いて全くの異を以って最高裁によって決定されたものであり、本来は死を以って、その罪を償うべきものなれど、余りに深き罪ゆえ、死を以ってよりも、生を以っての罪の償いをさせるべきという歴史上例のない判決となった。
今回の仮釈放面談試験も、その一環で為されたものである。
終身刑に服している者たちに、与えられる仮釈放は、最低20年以上の刑に服して後に、我が終身刑委員会によって検討されるべきものである。
同犯は、全き逆の論理において、仮釈放の検討を実施したのであり、その結果、同犯には不幸な結果となった。
ここに、生を以っての最大の罪の償いをさせるべく、同犯を仮釈放することと決定することに相成った。
この書状を以って、同犯の身元引受け人である、貴殿に通知するものである。

終身刑委員会 委員長 近衛阿呆麿」


郁子が最も恐れていた結果だった。
兄のたけしを迎えに行く足どりは重かった。