第百四十六話 藤原委員会

それから十五日後、藤原たけしは仮釈放された。
終身刑委員会が、彼の拘置所での生活態度を評価して仮釈放したのだ。
5人の委員が、藤原たけしと面談した。
「あなたは、自分の犯した罪を真摯に受け止めていますか?」
狩隈典子という委員の一人の女性がたけしに質問した。
たけしは黙っていたが、横には郁子が立ち会っていて、彼女が狩隈典子に答えた。
「はい。自分の犯した罪は一生消えないものですが、命ある限り償っていきたいと考えています」
武内夙法という委員の一人の男性がたけしに更に質問した。
「本人の言葉として決意の程を示してください」
たけしは、委員会の5人のメンバー全員が、藤原一族の血を引いていることに気づいていたので、敢えて黙っていたのだ。
好戦的であるたけしの態度に、5人の委員会員が最初否定的だったが、妹の藤原郁子がよくカバーをした。
「本人は、事件以来数十年が経過したと言っています。本人が直接みなさまにお答えできないのは、余りにも歳を重ね過ぎた結果であり、今ここにいるのは、前世から飛び超えて来た魂であるからです」
諏訪頼房という委員の一人が質問した。
「あなた方兄妹は、奥羽藤原三代の末裔でしょうか?」
「カスケード」を持参していた郁子は、徐に、三冊の本の中から、「カスケード(中)」を開いて読み出した。

“Cascade 666 非難
律法学者たちやファリサイ派の人々は、モーゼの座に着いている。
だから、彼らが言うことは、すべて行い、また守りなさい。
しかし、彼らの行いは、見倣ってはならない。
言うだけで、実行しないからである。
彼らは背負いきれない重荷をまとめ、人の肩に載せるが、自分ではそれを動かすために、指一本貸そうともしない。
そのすることは、すべて人に見せるためである。
聖句の入った小箱を大きくしたり、衣服の房を長くしたりする。
宴会では上座、会堂では上席に座ることを好み、また広場で挨拶されたり、『先生』と呼ばれたりすることを好む。
だが、あなたがたは『先生』と呼ばれてはならない。
あなたがたの師は一人だけで、あとは皆兄弟なのだ。
また地上の者を『父』と呼んではならない。
あなたがたの父は天の父おひとりだけだ。
『教師』と呼ばれてもいけない。
あなたがたの教師はキリスト一人だけである。
あなたがたのうちでいちばん偉い人は、仕える者になりなさい。
誰でも高ぶる者は低くされ、ヘりくだる者は高められる。”

この下りまで郁子が喋ると、更に委員会のメンバーの一人で最も高い地位にいるらしき、近衛阿呆麿と言う名の老人が口を開いた。
「お前さんは、わしの甥で総理大臣までなった太山馬鹿麿というのを知っちょるか?お前さんも五摂家の末席とはいえ、一条家の血を引く者ならちょっとは聞いたことがあるじゃろう?」
殆ど棺桶に両足を突っ込んでいて、時折現世に墓場から出て来るような雰囲気の、如何にも外見のみならず、中味まで薄汚れた爺々の風貌だ。
『こんな老いぼれが、いまだに世間的地位を得て生き永らえているようでは、この世はほんとにお終いだわ・・・』
汚れた世間を殆ど知らずに生きてきた郁子でさえ、ため息をつくような化石人間に、一身を托す立場に置かれた兄のたけしの心情を慮ると、それ以上読み続ける気にはなれなかった。
「今回の委員会の面談試験は、不適格という結論にしておきましょうか?」
5人の最後のメンバーである一番若そうな男が、化石人間の近衛阿呆麿に伺いを立てた。
『しまった!』
郁子は、すかさず「カスケード」を再び開いた。