第百四十四話 二人の証人

「君は!?」
拘置所の所員が雄仁の顔を見て叫んだ。
「藤原たけしに会いたいんですが・・・」
間髪を入れずに言う雄仁に圧倒された所員は、雄仁に逮捕状が出ていることを知らなかったらしく拘置所内に通した。
受付を通過した雄仁の目に入ったのは、久しぶりの面会室だった。
『あれから随分経ったような気がするが、まだ数週間前の出来事だったんだ・・・。藤原たけしと同じ網に囲まれた側に座って、弁護士と向かい合っていた・・・。冷たいコンクリートの壁で隔てられながら隣同士に座っていた藤原たけしの顔を、郁子の目を鏡にして見た・・・・・、あれはまさしく獣の目で・・・・純粋な郁子の目の中で彼女を獣姦するように激しく動きまわっていた・・・』
二人が兄妹だと後で知った雄仁だが、たとえ肉体的には兄妹の関係であっても、あの時のたけしの目は、肉体を超越した世界では、メスを犯すオスの目だと雄仁は確信していた。
面会人の席に座った雄仁の前には、ただ無表情な網だけが横たわっていたが、『ギッ!』という音がして、藤原たけしが部屋に入って来る気配がした途端に、無表情な網が生命エネルギーを得た生き物のような豊かな表情に変化した。
藤原たけしが一歩一歩足を進めるだけで、部屋全体が反応し、その波動が雄仁の肌まで貫通する。
雄仁の二の腕に鳥肌が立ち、ぞっとする想いがした。
直接視線を交えたわけでもないのに、強烈な視線が襲って来る。
部屋の二重の扉が開いて、雄仁の前にたけしの姿が現れると、雄仁は仰天した。
たけしはじっと下を向いたままなのだが、ふたつの目だけが頭頂部から雄仁を睨みつけているのだ。
真っ黒な髪の中から、金色に輝く目玉が、ぎょろっと雄仁を睨みつけている。
『お前が、郁子を刺した男か!』
金色に輝く目玉がそう叫んでいるのだ。
ふたりは表情豊かな網に向かい合って、黙って座っていた。
無言で向かい合っているのだけなのに、網だけがスピーカーのように感応する。
『カスケード!』
何処からとなく、ふたりの耳に入った。
藤原たけしが口を開いた。

“耳ある者は、聞け。
捕われるべき者は、
捕われて行く。
剣で殺されるべき者は、
剣で殺される。
ここに、聖なる者たちの忍耐と信仰が必要である。
もう一匹の獣が地中から上って来るのを見た。
この獣は、子羊の角に似た二本の角があって、竜のようにものを言った。
この獣は、先の獣が持っていたすべての権力をその獣の前で振るい、地とそこに住む人々に、致命的な傷が治ったあの先の獣を拝ませた。
そして、大きなしるしを行って、人々の前で天から地上へ火を降らせた。
更に、先の獣の前で行うことを許されたしるしによって、地上に住む人々を惑わせ、また、剣で傷を負ったがなお生きている先の獣の像を造るように、地上に住む人に命じた。
第二の獣は、獣の像に息を吹き込むことを許されて、獣の像がものを言うことさえできるようにし、獣の像を拝もうとしない者があれば、皆殺しにさせた。
また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。
そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。
この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。
ここに知恵が必要である。
賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。
数字は人間を指している。
そして、数字は六百六十六である。”

平岡雄仁が口を開いた。

“わたしは杖のような物差しを与えられて、こう告げられた。
「立って神の神殿と祭壇とを測り、また、そこで礼拝している者たちを数えよ。
しかし、神殿の外の庭はそのままにしておけ。
測ってはいけない。
そこは異邦人に与えられたからである。
彼らは四十二ヶ月の間、この聖なる都を踏みにじるであろう。
わたしは、自分の二人の証人に粗布をまとわせ、千二百六十日の間、預言させよう」
この二人の証人とは、地上の主の御前に立つ二本のオリーブの木、また二つの燭台である。
この二人に害を加えようとする者があれば、彼らの口から火が出て、その敵を滅ぼすであろう。
この二人に害を加えようとする者があれば、必ずこのように殺される。
彼らには、預言をしている間ずっと雨が降らないように天を閉じる力がある。
また、水を血に変える力があって、望みのままに何度でも、あらゆる災いを地に及ぼすことができる。
二人がその証しを終えると、一匹の獣が、底なしの淵から上がって来て彼らと戦って勝ち、二人を殺してしまう。
彼らの死体は、たとえてソドムかエジプトとか呼ばれる大きな都の大通りに取り残される。
この二人の証人の主も、その都で十字架につけられたのである。
さまざまの民族、種族、言葉の違う民、国民に属する人々は、三日半の間、彼らの死体を眺め、それを墓に葬ることは許されないであろう。
地上の人々は、彼らのことで大いに喜び、贈り物をやり取りするであろう。
この二人の預言者は、地上の人々を苦しめたからである。
三日半たって、命の息が神から出て、この二人に入った。
彼らが立ち上がると、これを見た人々は大いに恐れた。
二人は天から大きな声があって、「ここに上って来い」と言うのを聞いた。
そして雲に乗って天に上った。
彼らの敵もそれを見た。
そのとき、大地震が起こり、都の十分の一が倒れ、この地震のために七千人が死に、残った人々は恐れを抱いて天の神の栄光をたたえた。
第二の災いが過ぎ去った。
見よ、第三の災いが速やかにやって来る。”

ふたりは黙って見つめ合っていたが、藤原たけしの方から口を開いた。