第百四十二話 一匹目の獣

藤原たけし。
平泉・中尊寺の藤原三代清衡・基衡・秀衡の末裔でありながら、ある故に、その末路は悲惨なものであり、その極致に猟奇殺人者を生んだ。
ふたりの男女を惨殺したたけしは、その惨劇の最中で神を冒涜する言葉を吐き続けた。
「どの神が、この獣と肩を並べることができると言えようか!どの神が、この獣と戦うことができようか!神など獣の末席に座っておる小物ではないか!我は獣の王者なるぞ!」
神を冒涜する言葉を吐きながら、桃子の体を切り刻んだ。
「神は、獣にもオスとメスを区別したのが失敗の基だ!」
たけしは叫びながら、桃子の乳房を包丁でえぐり抜き、客のペニスを切り落とした。
「神は、獣に見る目を与えたのが失敗の基だ!」
たけしは叫びながら、桃子と客の両目をくり抜いた。
「神は、獣に言葉を与えたのが失敗の基だ!」
たけしは叫びながら、桃子と客の舌を抜き取った。
数時間に及ぶ断末魔の悲鳴が、平泉の町を席巻した。
「神は、嘗て我が祖先を愚弄した獣を八幡神と認めた。今、獣の頂点に立つ者が、神の手先になる人間どもに鉄槌を喰らわすのだ!」
最後の止めに、たけしはふたりの心臓をえぐり抜いた。
普段は快楽の鳴咽にむせぶ部屋が、その時は断末魔の鳴咽に変わっていた。
藤原たけしは、桜を責めることは決してしなかった。
豊満な彼女の乳房を優しく撫でてやるだけで、自己本位の快楽に耽るようなことはなかった。
ホモ・セクシュアルの快楽はペニスとチェストの交わりだ。
ホモ・セクシュアルは相手を異性としてではなく、人間として扱うから、決して暴力的にならない。
異性間での交わりは、獣が本来有している暴力性の発露に過ぎない。
桜が自殺する前に、たけしの子供を生んだ時、それは人工受精によるものだったが、受け取った精子は間違いなくたけしのものだった。
獣性の正統性を有する極致を神から付与された藤原たけしは、獣性の歪曲性を有する極致を神から付与された平岡雄仁との運命的出会いをしようとしているのだった。