第十四話 郡山

「何だって!」
雄仁が乗った列車の中には、人間ではなくてブタがいっぱい乗っているではないか。
列車が動き出すと、「この列車は12時30分平泉発陸奥3号東京行きでございます」と車内放送が流れた。
『何だ、ちゃんとした汽車じゃないか』
雄仁は、安心して座席に座った。
さっきまでブタに見えた他の乗客が、まともな人間の姿形をしているのを確認して安心した雄仁は、うたた寝をしてしまった。
「お客さん、あんだ銭を払っでくれやあ!」
ブタの顔で人間の裸の姿の女が、雄仁に言う。
「代金は最初に払っただろう!」
怒った表情の雄仁の声が言っている。
自分のものと思わしき右手が眼下に見え、自分のものと思わしき睫毛が眼上にちらついている。
「あんだの分はさきにもらっだべ。だけんど、あの警官の分さ、まだだべ!」
「何を言っているんだ!あの警官を相手にしているのは、あんたじゃないだろう?」
雄仁は怪訝な風な声の表情で言っている。
「何をねぼげだこど言ってるだ!この店で働いでいるのは、このおれだけだ!あんだど、あの警官とふだりまどめで喜ばせでやっでるじゃねえか、このどあほ!」
眼上でちらつく睫毛が、風でなびいたと思いきや、眼の前に、「あの警官」が真裸で立って笑っている。
「わあ!」
仰天した雄仁が叫んだ。
「お客さん!大丈夫ですか?」
東京行きの汽車の中で夢を観ていたのだ。
『ああ、夢を観ていたんだ!』
やっと我に戻った雄仁は、車窓から外の景色を眺めると、富士山が見える。
「やはり富士山は奇麗だなあ!」
何の疑問も持たずに富士の山に見とれていると、夢から醒めた時に心配して声を掛けてくれた男が、連れの女に言った。
「福島の盤梯山は、会津富士と言われるだけあって美しいねえ!」
平泉から乗った東京行きの汽車の車窓から富士山が見えるはずがないと思ったが、外に見える山は間違いなく富士の山である。
「すみません、旅行者の方ですか?あの山は間違いなく磐梯山ですか?どう見ても富士山としか思えないのですが・・・」
ぶつぶつと小言を言うような雄仁の表情に警戒心を持ったふたりのカップルが、雄仁に向かって言った。
「そうですよ、外に見える山は正真正銘の富士山ですよ。ねえ君?」
女性の方を向いて言う男の横顔が見えた。
「ええ、そうよ」
男性の方を向いて答える女の横顔が見えた。
ふたりとも、人間の顔をしている。
『よかった!現実だった!』
溜め息をつく雄仁だった。
富士山が見える景色と反対側の車窓を何気なく見返すと、窓のガラスにふたりのカップルの顔が映っていた。
「何だって!」
二匹のブタが抱擁しているではないか。
そして窓の向こう側には、駅の景色が見えてきた。
「郡山!郡山!」
駅のアナウンスが聞こえてきた。
「郡山!郡山!」