第百二十六話 時空を超えた「最後の晩餐」

レオナルド・ダ・ヴィンチは、「最後の晩餐」を、フィレンツェのサンタマリア・デレ・グラツィエ教会の食堂の壁に描いた。
幅4m60cm、長さ8m80cmという巨大な壁画である。
十二人の弟子、バルトロマイ、アルファイの子ヤコブ、ペテロと呼ばれるシモンの兄弟アンデレ、そしてイエスを銀貨30枚で売ったユダ。
イエスが、「汝らの一人、我を売らん」と告白をする。
ユダの横にいたゼベダイの子ヤコブの兄弟ヨハネにペテロが言う。
「裏切り者は一体誰なのか、主イエスに訊いてくれないか?」
イエスの右隣にいたトマスが人指し指を立てて、イエスに訊く。
「裏切り者は一人ですか?」
ゼベダイの子ヤコブが、「やめろ!」と遮る。
フィリポ、徴税人マタイ、タダイ、熱心党のシモンが慌て騒いでいる。
最後の晩餐とは、ユダヤ教で最も大事な催しである、「過ぎ越しの祭り」の為の食事である。
「最後の晩餐」の巨大な絵が動き出す。
イエスは弟子たちに言った。
「都のあの人のところに行って、こう言いなさい。『主が、「わたしの時が近づいた。お宅で弟子たちと一緒に過ぎ越しの食事をする」と言っています』」
十二人の弟子たちと席につき、一同が食事をしているとき、イエスは言った。
「はっきり言っておくが、あなたがたのうちの一人がわたしを裏切ろうとしている」
弟子たちは非常に心を痛めて、「主よ、まさかわたしのことでは」と代わる代わる言い始めた。
「わたしと一緒に手で鉢に食べものを浸した者が、わたしを裏切る」
イエスは言った。
イエスを裏切ろうとしていたユダが、口を挟んで、「主よ、まさかわたしのことでは」と言うと、イエスは答えた。
「それはあなたの言ったことだ」
一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与えながら言った。
「取って食べなさい。これはわたしの体である」
また杯を取り、感謝の祈りを唱え、彼らに渡して言った。
「皆この杯から飲みなさい。これは罪が赦されるように、多くの人たちのために流されるわたしの血、契約の血である。言っておくが、わたしの父の国であなたがたと共に新たに飲むその日まで、今後葡萄の実から作ったものを飲むことは決してあるまい」
一同は賛美の歌をうたってから、オリーブ山へでかけ、そこでペテロは言う。
「たとえ、みんながあなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」
「はっきり言っておく。あなたは今夜、鶏が鳴く前に、三度わたしのことを知らないと言うだろう」
イエスはペテロに言った。
ペテロは、「たとえ、ご一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません」と言った。
弟子たちも皆、同じように言った。
それからイエスは弟子たちと一緒にゲッセネマという所に来て、「わたしが向こうへ行って祈っている間、ここに座っていなさい」と言った。
ペテロとゼベダイの子、ヤコブとヨハネを伴ったが、その時、イエスは悲しみもだえ始め、彼らに言った。
「わたしは死ぬほどに悲しい。ここを離れず、わたしと共に目を覚ましていなさい」
イエスはうつ伏せになって祈った。
「父よ、できることなら、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの願いどおりではなく、御心のままに」
それから弟子たちのところに戻ると、彼らは眠っていたので、ペテロに言った。
「あなたがたは、このように、わずか一時もわたしと共に目を覚ましていられなかったのか。誘惑に陥らないよう、目を覚まして祈っていなさい。心は燃えても、肉体は弱い」
更に、二度目に向こうに行って祈った。
「父よ、わたしが飲まないかぎりこの杯が過ぎ去らないのでしたら、あなたの御心が行われますように」
再び戻ると、弟子たちは眠っていた。
そこで、彼らを離れ、また向こうに行って三度目も同じ言葉で祈った。
そして弟子たちのところへ戻って彼らに言った。
「あなたがたはまだ眠っている。休んでいる。時が近づいた。人の子は罪人たちの手に引き渡される。立て、行こう。見よ、わたしを裏切る者が来た」
祭司長たちや民の長老の遣わした大勢の群集が剣や棒を持って、十二人の弟子の一人であるユダが一緒にやって来た。
千五百年の時空の世界を飛び超えて、イェルサレムとフィレンツェの間で、光子体が飛び交う。
そして、「最後の晩餐」はそのシナリオを完成した。