第百話 燃える金閣寺

決行の日である5月5日まで一ヶ月を切った。
現実の世界では、一ヶ月は24時間掛ける30日若しくは31若しくは28日若しくは29日だ。
何ごとも厳密に言わなければ、あとで誤解が生じる。
これが人間という畜生の世界だ。
720時間若しくは744時間若しくは672時間若しくは696時間である。
更に厳密に言わなければ、凡夫には理解できない困った世界だ。
43200分若しくは44640分若しくは40320分若しくは41760分である。
もうひとつ厳密に言わなければ、馬鹿には理解できないやり切れない世界だ。
2592000秒若しくは2678400秒若しくは2419200秒若しくは2505600秒である。
ここまで厳密に言わなければ、阿呆には理解できないどうしようもない世界だ。
2,592,000秒若しくは2,678,400秒若しくは2,419,200秒若しくは2,505,600秒である。
まるで文盲である。
馬鹿もん!逆だ!
まるで音盲である。
それでよいのだ!厳密に言え!
しかし、夢の世界では、時間はなくて、ただ時の流れだけである。
???
720時間若しくは744時間若しくは672時間若しくは696時間でも、1時間と変わりはない。
???
43200分若しくは44640分若しくは40320分若しくは41760分でも、1分と変わりはない。
???
2592000秒若しくは2678400秒若しくは2419200秒若しくは2505600秒でも、1秒と変わりはない。
!?!?!?
2,592,000秒若しくは2,678,400秒若しくは2,419,200秒若しくは2,505,600秒でも、1秒と変わりはない。
カッ!カッ!カッ!
様子が激変してきたようだ。
そうなら、ややこしい話を持ち出して、堂々巡りをするようなこと言うな!
単刀直入に言え!
歯の間に何か異物混入の感じがした雄仁はふと考えた。
鏡湖池の湖面に足を浸していた雄仁が、隣で真裸で同じように鏡湖池の湖面に足を浸していた南野たけしに訊いた。
「マッチをお持ちではないでしょうか?」
真摯に訊く雄仁に、たけしも紳士に答えた。
「本官はただいま禁煙中であります」
雄仁は思った。
『人前で丸裸になる警官が、何が、「本官はただいま禁煙中であります」かだQ!』
新語だ!
雄仁は冷静に更に訊いた。
「それでは、ライターをお持ちではないでしょうか?」
たけしの表情に、「したり!」顔が現れた。
ピストルカバーの中からピストルを引っ張り出したたけしは、銃口を雄仁に向けた。
『本物のピストルは危ないから、ピストルの形をしたライターを所持していたとは、なかなか出来た奴じゃわい!』
内心雄仁はたけしを見直した。
「バアン!」
強烈な爆音がした。
鼓膜が破れたのではと思うほどの衝撃だった。
目を開けたら、目の前に、つま楊枝に小さな炎がついていた。
雄仁は、南野たけしの阿呆さ加減に完全に切れてしまった。
小さな炎のついたつま楊枝を、舎利殿の畳に投げつけたのである。
一本のつま楊枝がマッチになって、舎利殿は見る見るうちに燃えあがっていった。
仰天したふたりは、必死になって夕佳亭のある高台に上がって傍観した。
雄仁はため息をつきながら呟いた。
『ああ!決行の日はまだ先だと思っていたのに・・・』
その横で丸裸の南野たけしがはしゃいでいた。