第一章 フツとフツシ親子の渡来

紀元111年、扶余一族の血を引いた布都(フツ)は息子の布都斯(フツシ)を伴って倭人の住む出雲に向かって帆を上げていた。
扶余一族の放浪生活に嫌気がさしたフツは、妻のヒルメが扶余一族の王である李生成に姦し殺されたのがきっかけで高句麗の都ピョンヤンから息子フツシを連れて脱出したのである。
李生成は倭人の住む出雲を支配下に置いていた。
彼の28人の子供の中、8人の兄弟を出雲に派遣して、総督として統治させていたのである。
李生成は、残忍且つ精力が絶倫であるため、常に慰めの女を侍らせ、身内や家来の妻でも見境なく手をつける。
その血を引いた8人の兄弟も出雲で同じことをやっていた。
フツが敢えて李生成の息子のいる出雲に向かった理由のひとつは、殺された妻の復讐を果たさんがためである。
出雲では李生成の8人兄弟のことをヤマタのオロチと呼んでいた。
八つの頭と八つの尻尾を持つ蛇のことをヤマタのオロチと言う。
出雲の民から綺麗な娘を差し出させては慰めの相手をさせていた。
ヤマタのオロチの餌食になる娘の悲鳴が毎夜響き渡る地獄の世界が出雲。
酒と女に溺れるヤマタのオロチは、その名の通り、悪魔の蛇で、出雲の民は蛇に睨まれた蛙そのもの。
フツ・フツシ親子は、そんな出雲に乗りこんだ。ヤマタのオロチの親である李生成に復讐するために。
宍道湖に入ったフツ親子を、出雲の民の長である奇(クシ)が出迎えた。
「しばらくの間は、我が館に潜んで下され」とクシがフツ親子に言うと、
「ヤマタのオロチは相変わらずの悪行を続けておるのか?」とフツシが訊ねる。
「ますます、ひどくなってきております」とクシが答えた。
「親父どの、如何なされますか?」と訊くフツシに、フツは腰に下げた剣を与えて言う。
「フツシよ。この地をお前の王国にして、民の平和を守ってやるがよい。その為に、この十束(とぐさ)の剣を与える」
クシはその親子の姿を見て、
『このフツシ様を出雲の王として仕えて行こう!』と心に決めた。
フツ・フツシが扶余一族から倭の出雲一族になった瞬間だった。