第四十四章 エリザベス感激

スルタンの話しでは、イラン・イラク戦争の時に、アメリカはイラクを応援した。応援したというより、イラクをそそのかしてイランに突然宣戦布告もせずに攻め入らせたのもCIAの工作だった。その暗躍した拠点がマスカットだった。
目的は言うまでもなくホメイニ政権打倒だった。
CIAやFBIはアメリカ政府と一心同体だと思ったらとんでもない勘違いをすることになる。
ソ連の繁栄時代を築いたブレジネフ体制を倒したのもKGBであり、ブレジネフ亡き後を引き継いだのはKGB長官だったアンドロポフだ。
1961年突如べルリンの壁をつくったのも、1968年「プラハの春」で有名な当時のチェコスロヴァキアの民主化運動を武力制圧したワルシャワ条約機構は、KGB長官だったアンドロポフの指示によるものだった。
実質独裁制の共産主義国家であっても、建前が民主主義である国家は、必ず表の顔と裏の顔がある。
完全立憲君主制国家だけが、裏表が無い。イギリスのエリザベス女王も、日本の天皇も何の権限も持たない表向きの元首だ。
アメリカを筆頭に共和制国家では大統領が国家元首だが、実際に国を牛耳っている者は別のところにいる。
人間といえども所詮動物であり、動物というものは、結局は力による支配しか出来ないようになっている。
民主主義などと標榜しても、衆愚政治に陥ることを支配者たちは分かっている。だから表向きは国民の選挙で選んだ人間を国家のトップに置いても、裏で操る機関を必ずつくる。
CIAやFBI、KGB、ナチスドイツのSSとゲシュタポ、各国の秘密警察、すべて裏の支配機関である。
独裁者は軍隊を掌握するだけでは、いつ軍事クーデターが起こるかも分からない心配があるから、必ず親衛隊を持って、裏の支配者を封じ込めるしかないのだ。
じめじめした陰湿な社会が、世界の実態なのである。
日本でも、実質支配しているのは、ずばり大蔵省だ。天皇も総理大臣もただのお飾りだけである。
戦前は、大蔵省の上に内務省があって、彼らが実質支配していた。いわゆる秘密警察の類と同質であった。
スルタンは続けた。
「イラン革命をそそのかしたCIAがホメイニ政権を操ることが出来ないことをアメリカ大使館人質事件で知ると、今度はイラクをそそのかしてイ・イ戦争を起こさせた。ところがイラクのフセインが独裁者になって操ることが出来なくなると、クエートに石油増産をさせ、地下では同じ油田のイラクを刺激して、イラクのクエートへの侵略工作をした。そして湾岸戦争へと発展させていくのは、彼らの常套手段なのです。
石油メジャーを資金源にしたCIAは、世界を常に有事の状態にして置きたいのです。
今回のイラン航空墜落事故も、スメイニ師を操ることが出来なくなったCIAとFBIによるものです」
村木の推測通りだった。
「ソ連が崩壊した今、アメリカの一人勝ちの中で、今度は内部の覇権争いが起こりつつあるのですね。今回の事件もその一環だと考えるべきでしょうね」
村木は、近い将来必ず大きな事件が起きるだろうと思った。
これから起きる世界的事件は、すべてアメリカの裏の支配権を握ろうとする覇権抗争が原因だと考えていい。
「これからは、表向きはアメリカの世界支配構造になっていき、陰の支配争いの中に、我々中東の国が巻き込まれる結果になっていくでしょう」
スルタンはため息をつきながら、「自分には何も出来ない」と両手を上げる始末だった。
「しかし、ミスタームラキの大事な女性は、明日必ずお返しします」
翌朝早く、インターコンチネンタルホテルから独り解放されたエリザベスが宮殿に泊まったていた村木の元に送られて来た。
村木の顔を見たエリザベスは、感激して村木の胸の中に飛び込んでいった。