第四十一章 マスカット・オマーンへ

マスカット・オマーンという国は、隣のアラブ首長国連盟(通称UAE)と袂を分けた国だが、基本的には同じ人種で、正式名はSultanate Of Omanと言う。
UAEが、イギリスの影響を強く受けているのに対抗して、アメリカのバックアップでできた国だ。
だからCIAの人間が、コンサルタントやアドバイザーとして多数潜入している。
石油も出る豊かな国で、アメリカの指導の下、農業に力を入れている。
ここに、村木の友人でゲリー・ルイスという元CIAの人間が、農・漁・鉱山省のアドバイザーをしている。
ここはMinistry Of Agriculture、Fishery and Mineと言って農業省、漁業省、鉱山省が一つになっている。
その大臣がアル・フタイムと言って、元々はドバイの財閥の一族がなっている。
村木は、昔、アル・フタイムがガラダリの強引かつ悪辣なやり方で商売をどんどん取られていくのを阻止してやったことがある。
ドバイのカールトンホテルはフィリッピン人の出稼ぎが働けるホテルで、マニラにいた時に多くのフィリッピン人と親しくしていた村木は、カールトンホテルに働けるようにしてやったのだ。
そのカールトンホテルでガラダリのトップのユセフ・ガラダリと対決したことがある。
村木は一枚の書類をユセフに見せただけで、彼は顔色を変え、それ以後村木の言いなりになった。
「ゲリーかい?村木だ」
ゲリー・ルイスは驚いた様子はなかった。
「もう事情は分かっているんだね?」
と村木が言うと、「ああ。もうこちらでは噂が広がっているよ。いつこっちに来るんだい?」とゲリーが聞いてきた。
「スルタンが絡んでいるらしいけど、アル・フタイムとスルタンの関係はどうなんだ?」
ゲリーは、今は一匹狼で仕事をしているから、CIAのことも気にしていない。
「スルタンも、CIAの押しつけに困っているのが実情だから、君が来ても歓迎してくれるよ。昨日もアル・フタイムと一緒にスルタンの引見を受けたんだけど、そんな事を言っていた」
「これで目途は立った」と思った村木は、「スルタンに言っておいて欲しい。俺は別にアメリカ政府と事を構えるつもりはない。ただ乗客の中にエリザベス・タイラムと言う女性がいるはずだ。彼女さえ戻って来てくれればいいんだ」とゲリーに言った。
「肝心のもう一人のVIPはどうするんだ?」とゲリーが聞いてきたが、「そんな人間は、俺は知らない。彼女の解放だけだ」
「OK!それなら話しは簡単だ。一般人として、すぐに来てくれ。NOCは空港にアル・フタイムのスポンサーで入れておく」
村木は事情をジャミールにもアバスにも言わずに、ちょっと用事でベルンまで行くと言って、ツェルマットからブリーク行きの登山列車に乗った。
ブリークに着いた村木は、ミラノ行きの列車が入って来るプラットホームで待っていた。
すると、あの二人の記者が後をついて来たのだ。
「何だ!お前たち。俺をつけて来たのか!」怒った表情で村木は言ったが、内心諦めていた。
「まあ、足手まといにならなければいいか!」と言うと、彼らは、「やった!」と言って大喜びした。
ミラノ中央駅に着いた三人は、タクシーでマルペンサ空港に直行してマスカット行きの便を探したが、直行便が無い。
仕方なくアテネ経由のガルフ航空で行くことにした。
アテネ空港はヨーロッパと中東の国の乗り継ぎで有名な空港だ。
大きなロビーがあって、中央に各便の状況を示すパネルがしょっちゅうパタパタと動き、その度に待っている乗客が、音のする方に目をやる。
幸い、ガルフ航空GF135便はアテネ空港に予定通りフランクフルトから到着した。
アテネからマスカットまで三時間の旅だ。
離陸した飛行機の中で、村木は二人に話しかけた。
「オマーンには行ったことはあるのかい?」
「いいえ。初めてでございまして、胸がワクワクしております。ええ」
村木は笑いながら、「そうか、初めてか。それは大変だ!あの国はホモが多くて、特に入出国管理のオフィサーが多い。お前さんたちはNOCが無いので、余程彼らに気に入って貰わないと入国出来ないと思うよ」
その話しを聞いた上田カメラマンは真っ青な顔をして、乾記者に、「乾先輩、どうしましょう?えらいことになりましたね」と訴えたが、乾記者は平然として答えた。
「オカマの一回や二回、どうってことないじゃないか。あれはあれで結構なもんだよ」
これには、村木もさすがに度肝を抜かれた。
「この男は、まったく分からん!」