第三十五章 自宅への招待

「マリアン、ホテルのFAX以外にプライベートなFAXはあるかい?」
部屋の中をチェックした村木は、メモ用紙に書いて渡した。
マリアンたち家族は、このホテルから更に上った所の、山の斜面に建てた綺麗な白い家に住んでいることを知っていた村木は、マリアンからメモ用紙で自宅のFAX番号を貰った。
メモ用紙を筒に入れて、犬のドミノに村木は言った。
「ドミノ、下にいたジャミールというおじちゃんに、この筒を渡してくれ!」
ドミノは筒をくわえて階段を下りて行った。
マリアンは、フッとため息をついていた。
村木は、不愉快なことだと思っても、結局その方が彼女の家族に迷惑をかけなくて済むのだから仕方なかった。
マリアンも、十八才になっていたからわかっていたが、こんな状態がいつまで続くのだろうかと、不安でいたのだ。
部屋続きのドアーが突然ノックした。
「どなた?」と村木が言うと、ジャミールだった。
「犬が、僕に筒を、こっそりと渡しに来たので、何かと思って中のメモを見たよ。それで、僕も自分の部屋に入ったら、となり合わせの部屋だとわかった。彼女が気を利かしてくれたんだ。まだ子供なのに、よく頭の回る子だよ」
と言ってマリアンの方を向いて笑うと、「わたしは、もう子供ではないです。十八才なんですから」と、口を尖らして言った顔が、かわいかった。
「アバスが、あの、うさん臭いモセイニという奴を相手してくれている。ハマスに電話をするから、もう一度村木の腕時計が必要だろう?」
ジャミールは、村木とマリアンが再会を喜んでいるのに気を遣っていたのだ。
「ジャミール。僕と彼女は、そんな関係ではないよ。気を回さないでくれ」
「そうよ。わたしには彼氏がいるんだから、変なこと考えないでください」
二人に言われて、ジャミールはほっとした。
彼は内心、エリザベスのことを考えていたのだ。村木はあっちでもこっちでも彼女をつくるような男ではないことは、ジャミールはよく知っていたが、やはり男と女の関係だけは、第三者にはわからない。
ハマスの携帯電話に繋がって、趣旨を伝えた。
ハマスは予定より遅れて、自宅に帰れるのは十一時頃だと言った。
こちらの時間で午後八時だ。
マリアンは、村木たちを自宅に招待するように両親から言われていた。
三人がフロントのあるロビーに戻ると、まだモセイニがアバスと話しをしていた。
ジャミールがアバスに合図すると、「すみません、わたしたち疲れているので、今日は失礼します。明日もう一度連絡するか、して下さい。あなたは、どこのホテルにお泊りですか?」
アバスがモセイニに聞いた。
「モンテローザというホテルですが、また明日お伺いします」
「そうですか、それでは失礼します」とアバスは言って部屋に行く振りをしたので、モセイニは仕方なくホテルを出て行った。
村木は、すぐにクルムホテルの乾記者と上田カメラマンに電話した。
二人の話しだと、あれ以上遺体の発見はないそうで、明日にも捜索活動は終結するらしい。
村木は、彼らにモンテローザホテルに泊まって、モセイニという男を監視するように言い、今晩の招待に彼等も仲間に入れてやることにした。
「マリアンは、彼らの様子だけで、腹を抱えて喜ぶだろう」
村木はそう思うと含み笑いをしたが、すぐに真剣な顔になって、「やはりFAXの内容を早く確認しないと」と思った。