第三章 安川顧問

高田化学の副社長まで昇りつめた安川は、今は顧問として在籍しているが、実質は姥捨て山の一人だ。
高田化学の実権を握っているのは四反田会長で、四本社長は名ばかりの社長である。
四反田を社長にした樋口一郎相談役が会長の時に、四反田から次期社長に四本をしたいと報告に来たことがある。
「社長である君が選んだのだから、いいんじゃないかね」
そう言ったものの、樋口は内心、「何故、あんな四本みたいな奴を社長に選ぶんだ!」と叫んでいた。
「ご了承頂いてありがとうございます」
四反田は嬉しそうに言った。
「ところで、これは個人的な質問だから答えたくなかったら答えなくてもいいよ。なぜ四本君を社長にしようと思ったのかね?」
樋口から了承を得て、緊張の糸が切れたのか、四反田はつい本音を吐いてしまった。
「はい。四本君が約束してくれたんです。自分を社長にしてくれたら、四反田会長の言うことは何でも聞きます。と」
話を聞いていた樋口は開いた口が塞がらなかった。
安川は、樋口の秘蔵っ子として育てられた。
樋口が社長の時は、社長室長をして、樋口の為なら命も惜しまないとまで思って仕事をしていた硬骨漢だった。
ところが、樋口から四反田に社長が交替した時に、樋口会長が人事権を社長になかなか譲らないのに業を煮やした四反田が、安川を取り込む策に出て、まんまと単純な安川は四反田に寝返った。
お陰で副社長までしてもらった。
「村木君。代表取締役副社長なんて平社員と何にも変わらないよ。何一つ決めることが出来ない。それなのに、新製品の失敗の詰め腹を俺に切らせやがって、四反田の野郎は。自分が社長の時に決めたんだから最高責任者は自分のくせして!」
腹が煮えくり返るような言葉つきで安川は村木に言った。
「だから、あんな奴、徹底的にやっつけてしまえ!今の君なら出来るはずだ」
横で、安川の下でずっと仕事をしてきた島武男が頷いていた。
「ところで、今度はいつ四反田の野郎と会うのかね?」
「いえ、別に決まっていません」
村木は、正直に答えた。
「今回の件で、樋口さんから許しを貰えることが出来たよ。君のお陰だ」
村木は前から疑問に思っていたことがあって、安川に尋ねてみた。
「安川さんは、樋口相談役とは師弟関係なんでしょう。それがどうして縁が途絶えていたのですか?」
安川は嶋の顔を見た。
嶋は頷いた。
「まあ、俺も今年限りで顧問も首だから正直に言うが、四反田の野郎にはめられたんだ。樋口会長が役員人事に口を挟ませない方法がないかとね」
「それで、どうしたんですか?」
「ある恐持てのする総会屋に頼んで樋口会長を脅してもらったんだ。それを俺にやらせたんだ、四反田の野郎は!それで樋口さんから出入り禁止になったって訳だ」
話を聞いていた村木はへどが出そうになった。
「こいつらも、いつ俺の寝首を掻くかも知れないな」
村木は、営業で修羅場を踏んで来ただけに、危機管理のセンスは抜群に持っている。
この話も、きっちりテープレコーダーに収めていた。
「君は、仕事に関しては抜群に出来ること衆目の一致するところだが、やはり協調性がないから一匹狼と思われていた。だけど今の君は大化けした虎だよ。俺たちも頼もしい虎について行くよ」
横で嶋が言った。