第二十九章 エリザベスのハンドバッグ

Rescue隊が、捜査を終了して、クルムホテルに戻って来た。
彼らは、数十人の犠牲者を、カバーで覆われた担架で運び、遺族にホテルのコンフェレンスルームで確認するよう言った。
数十体の死者が並べられた、コンフェレンスルームは流石に異様な雰囲気に包まれ、遺族も緊張の面持ちで、カバーされた遺体を一つ一つ確認していった。
あっちこっちで、泣き叫ぶ声が聞こえる度に、確認していた遺族が泣き声の方に顔を向けては悲痛な表情をする。
遺体の後には、遺品らしき物も運び込まれて、アバスが遺体を確認している間、村木とジャミールがエリザベスの遺品を探し始めた。
幾度か、ジャミールがアバスの所に行っては、一緒に確認をしていた。
小さな頃からの付き合いだったジャミールとエリザベスは男女の想いはなかったが、お互い信頼していただけに、クセインとは違う想いがあった。
遺品を探していた村木は、ハンドバッグばかりを集めた担架に目が行った。
「エリザベスが持っていたハンドバッグだ!」
村木は走って行った。
担架の中に雑然と重ねてあったハンドバッグの中に、エリザベスの白い歯と真っ赤なルージュにマッチした赤いハンドバッグがあった。
すぐに、取り出そうとするとRescue隊の人間が遺族の確認をしてきた。
「ジャミール!タイラムさんをこっちに」
村木は日本語でジャミールに大声で言った。
ジャミールは村木が何か発見したことを察知して、アバスに小さな声で呟いた。
二人は村木の所へ走ってやって来て、村木の指示通りに、遺族の確認をさせた。
Rescue隊員は、赤いハンドバッグを引っ張りあげ、アバスに手渡した。
手渡されたハンドバッグをアバスが開いたら、エリザベスの品物と一緒にパスポートもあった。
パスポートを開けたアバスは、エリザベスの顔写真を見て、泣きだしてしまった。
村木も、エリザベスの綺麗な笑った顔写真を見た時は、胸が張り裂けそうになって、アバスのように泣き叫びそうになるのを必死に堪えた。
「えらく汚れが少ないですね」
村木に、金魚の糞のように付きまとっていた徳売新聞の乾記者が口を挟んだ。
「よお、お前さん結構シャープじゃないか」
と村木に誉められて、ほとんど毛のない頭を自分で撫でて嬉しそうな顔をしている二十日ねずみだった。
「この子等は、意外と使えるかもしれない」
その横でジャミールが日本語で言った。
「こいつは面白いおもちゃが見つかっちゃいました。これはいけるぞ!」
村木はいぶかしげな表情をして、ジャミールに言った。
「誰かの物真似をしているのかい?」
ジャミールは頭を掻いて、若い二人を見て笑った。