第二十六章 FBI捜査

翌朝、三人はホテルのバルコニーから墜落現場を見ていたら、突如上空から軍用ヘリコプターが飛んで来て、墜落現場に着陸した。
「いよいよ、捜査の開始ですね」
ジャミールが村木に日本語で語りかけた。
「だけど、どうして軍用ヘリコプターなんだ。まずはRescue隊がやって来るのが普通じゃないかね。Rescue隊がやって来た気配がないのがおかしいと思わないか?それから報道機関がいないのも解せない。彼らは人命のことなど、お構いなしだ。
表面では、人命尊重を標榜してジャーナリストの特権を駆使しているが、本音のところではスクープが目的のまるでゴキブリのような連中だ。そのゴキブリが、零下二十度を超える寒さで顔を出さないなんて洒落にもならない」
話しを聞いていたジャミールは、真実を言い得ているが、村木の言葉に憎しみがにじみ出ていることが気になった。
ヘリコプターから降りて来たのは背広を来たアメリカ人だった。
「FBI捜査官だろうな」
村木は呟いた。
不思議そうな表情をしてジャミールとアバスは村木の顔を見ていた。
「テロ事件だと判断したようだ」
テヘランを発つ時から、村木はテロによる航空機爆破が濃厚だと思っていた。
そして、テロならアラブ原理主義側か、イスラエルのモサド側、つまりアメリカのCIAの罠かどちらかしかない。
常識から考えれば、イラン航空機を爆破したのだから、CIAの工作が最も筋が通るのだが、結論を出すには情報が余りにも乏しい。
冷戦終結で、アメリカに対抗するソ連が消えてしまったため、アメリカ一人勝ちの形態になりつつあった世界情勢に、飽くまで抵抗していたのが、ファンダメンタリスト達で、彼らのパトロンになっているのがリビアのカダフィー、イラクのフセインだった。
しかし、事態はそんな簡単なものではないことを村木は充分承知していた。
彼がテヘランに住んでいた頃は、パーレビ国王独裁体制で、表面は親米であったが、肝心の米国政府が共和党政権か、民主党政権かで反転してしまうのだ。
共和党政権だと親イスラエル派となり、反アラブとなるから、アラブとは一線を画するパーレビは親米になるが、民主党政権になると親アラブとなり、パーレビは反米となる実に複雑な関係である。
結局は、個人感情であり、個人的打算で国の運営が為されているのが世界の実態である。
パーレビ時代のアメリカ大統領は民主党のカーターであったから、パーレビは表向きは親米で通していても、実際は反米体制を採っていた。
そしてCIAの工作で革命を起こされたのだ。
そして革命後のイラン政府は民主党寄りであった。
「今は、民主党のクリントン政権だから、基本的には親米体制と言える。そうするとCIA工作は有り得ないという結論になる。やはり何か裏があるはずだ」
村木はシャープな頭をフル回転させていた。
「FBIが、どうして来るんだい?」
ジャミ−ルはまったく訳がわからず、村木に尋ねた。
「FBIが出て来ると言うことは、国際犯罪すなわちテロ事件であると言うことだ。その場合は、墜落機の乗客にアメリカのVIPが乗っているという証明だ。多分僕はそのケースが有力だと思うよ」
村木は、彼らに説明した。
「だけど、そんなVIPがロンドンに行くのに何故イラン航空機に乗る必要性があったのかが解らないんだ」
頭の中では、結論は出ていた村木だったが、ここでは敢えて言わなかった。