第二十四章 ゴルナーグラートの夜

五時五十五分に、ブリークからの登山鉄道で、ツェルマットに着いた一行は、イラン航空のスタッフに、それぞれの宿泊先まで電気自動車で案内されて行った。
三人は、ゴルナーグラートまで今日中に行きたいと言って、ツェルマットの駅を出て、ゴルナーグラート行き登山鉄道の駅に向かった。
切符売り場で、村木が、三人分のチケットを買って、すでにプラットホームが開放されていたので登山列車に乗り込んだ。
「村木さんは、よくこの町をご存知なのですね」
とアバス・タイラムが感心して言ったら、ジャミールが笑いながら、アバスに言った。
「村木は、ツアー観光の添乗員になったら世界一になれること間違いなしですよ。南極大陸でも、案内してくれますよ」
「冗談言うなよ、ジャミール。こんな時に」
怖い顔をして言った村木の態度にピリッとしたジャミールは黙ってしまった。
ジャミールの言う通り、村木は世界のほとんどの主要都市の道路マップが、頭に入っている。
彼は、現地の人間やタクシーに乗せてもらうことをせずに、その国に着いたら、真っ先に空港でレンタカーを借りて、自分で町の中を運転して入っていくポリシーを通してきたのだ。
危険極まりない、西アフリカのナイジェリアでさえも、彼は自分で車を運転して、奥地に入って行った。
サウジアラビアは、英国人にとって最高の出稼ぎの国で、サウディー(サウジアラビア人)の経営する企業は、すべて英国人が実質上のマネージをしているほど、英国人は優遇されている。
それでも、村木が運転している近くで、英国人の運転する車がサウディーの男を撥ね殺す事故が起きたことがある。
イスラムの国は聖書にある通り、「目には目、歯には歯」の国だから、即裁判にかけられ、有罪が決定された。
裁判長が、撥ね殺された男の遺族に、「この男は有罪に決まった。どういう罰を、お前は望むか?」と聞くと、死んだ男の妻がチャドルを被ったままで、「わたしの夫を撥ねた車で、この男を撥ね殺してください」と言ったのだ。
裁判長は、執行人にすぐ指示をして、公開の場で英国人は撥ね殺させた。
それほど危険な国でも村木は自分で運転するポリシーを変えなかった。
時刻通り、登山鉄道は出発した。
幸い、まだ陽が沈んでいなかったので、右側にマッターホルンの雄姿が見えた。
ゴルナーグラートまでは約三十分かかる。
ゴルナーグラートは終着駅で、海抜三千メートルを超える所にあり、クルムホテルという名のお城風のホテルがある。
マリアンが予約しておいてくれたのだ。
駅に着いた三人は、右側に広がる広大な氷河の上に、真っ黒に焼けただれた機体が横たわっている姿を見た。
さすがに村木も、その無残な姿を見た時は、体が震えていた。
ホテルにチェックインした三人は、既に陽が沈んで、気温も零下二十度近くになっていたので、ホテルの外には出られなかった。
部屋の中から、村木は一晩中、焼けただれ、ばらばらになった機体を眺めていた。