第二十一章 イラン航空機墜落

テヘラン発ロンドン行きIR001便は、午後八時半にメーラバード空港を離陸した。
テヘランに夕方に戻っていた二人は、ジャミールの家に戻った。
「エリザベスから電話を貰ったよ。村木さんと逢うことが出来てよかったと言ってたよ。何か淋しそうな感じだったけど」
ジャミールの機転で村木と再会することが出来たことの礼を言いたかったのだ。
「ジャミールが電話してくれたんだろう。エリザベスが言ってたよ。ありがとう」
村木も素直にジャミールに礼を言った。
クセインと村木がガズビンの工場を経営していた頃は、ジャミールは日本の拓植大学を卒業してテヘランに帰って父親のマンスールの下、見習い修行中だった。
だから、村木と話しすることさえ儘ならなかった。
その後、クセインがアメリカに半ば亡命するようなかたちでイランを離れた時周りは、ジャミールが後を継ぐのは無理だと思っていた。特に親父のマンスールが認めようとしなかった。
イラン人のエリザベスと結婚しようとせず、日本人女性と結婚したいと言ったのが、気に入らなかったのもあるが、日本で遊び癖がついてしまったことが、最大の原因だった。
エリザベスが村木のことを好きだったことも理由の一つだが、ジャミールには、本当に好きな日本人女性がいたのだ。
エリザベスのことは知らなかった村木だったが、ジャミールが日本人女性を好きだったことを知っていたので、何かと日本で彼をバックアップしていたのだ。
ジャミールも、そんな村木を慕って、よく会社に遊びに来ていた。
村木は親父のマンスールに、「ジャミールは気の優しい青年です。商売という点では、クセインのような厳しさはないでしょうが、彼にはまた別の良さがあります。
どうか、彼を認めてやってください」と言って説得したのだ。
ジャミールは心底村木が喜んでくれたことを知って、感激した。
「今までのお返しが少しでも出来たなら、僕も嬉しいよ」
本当に日本語が上手い。まるで声だけ聞いたら日本人と勘違いする。
カスピから帰って来て、みんなで懐かしい話をしていたら、もう十二時を過ぎていた。
そこへ、母親のアバシが青い顔をして二階から降りてきた。
「大変だわ、イラン航空機がスイスのアルプス山中で墜落したらしいの。エリザベスが乗っていた飛行機じゃない?」
村木は、顔面蒼白になった。