第十五章 超美人との再会

クセインと村木がカスピに来ていることをカハラム・ゴルマーが同業の仲間に連絡をした。
チャルースに向って走っている途中で、電話が入って来た。
マシャッドの例のハリウッドスターのお兄さんからの電話で、チャルースに来て二人を待っているらしい。あの時の超美人の娘さんも一緒だと言う。
クセインから、その話しを聞いた村木は、「あれからもう二十年近く経っているよ。もう娘さんとは言えないね。だけど逢ってみたいね」
電話でクセインは夕食を一緒することを約束した。
「彼女、お前が来ていることを知って、わざわざマシャッドまで親父さんと一緒に来たんだぜ」
クセインは冷やかすように村木に向って笑って言った。
「だけど、もう四十前後のおばさんだろうし、結婚もして子供もいるだろう?」
村木は、超美人の面影を思い出して、会ってみたい気がしたが、それほど心が騒ぐほどでもなかった。
チャルースの町はテヘランからエルボルズの峰を真直ぐ縦断してカスピ海に出たところにある町でけっこう都会である。
インターコンチネンタル・ホテルに八時のアポイントを決めたクセインは、インターコンチに電話して二人分の予約をした。
七時前にホテルに着いた二人は先にチェックインして八時まで休息をとることにして、八時にロビーで落ち合うことになった。
昔、マシャッドで超美人と会って昼食をした時のことをベッドの上で想い出した。
村木はまだ二十代で若かったが、ペルシャ語どころか英語も片言しか喋れなかった。そしてカスピの田舎町の巡業だったので、服装も正装はなく、顔の髭も伸び放題にしていた。だから超美人も自分には余り良い印象は持っていないと思っていた。
「だけど、すごい美人だったな。ハリウッドの美人女優でも歯が立たなかっただろう。特に笑った時の口元は輝くばかりの美形だった」
その女性が、自分に会いたくて、わざわざマシャッドから来てくれた。
「齢は重ねても、あの美形はそう簡単に崩れるはずがない」
あと一時間後に会えるなんて想像も出来なかった。
八時前に村木は部屋を出てエレベーター・ホールに向かった。
一階に降りたエレベータのドアーが開くと、目の前に、あの時とまったく変わらない彼女が立っていた。
「Mr.Muraki. Welcome to my county again. My name is Elizabeth, do you remember me?(村木さん、ようこそいらっしゃい。エリザベスです、憶えていらっしゃいますか?)」
「You didn't give me your name at that time, Howsoever your elegance force me to remember willy-nilly(あの時、お名前を聞いていなかったので。だけど、あの時と変わらぬご様子は否応なしに思い出させてくれますよ)」
エリザベスは恥ずかしそうに下を向いたが、その目が潤んでいたことを村木が、気がつくわけもなかった。