第十四章 老夫婦との再会

ラシットのホテルを予約はしてあったが、結局徹夜で飲み明かした二人は、一睡もしないまま、カスピ海沿いに車を走らせた。
カスピ海のちょうど底にあたるところにチャル−スという町がある。
二人はチャルースに向かった。
途中一時間程走ったら、左側にずっと見える紺碧色のカスピ海とコントラストの合った白い屋敷が見えて来た。
「クセイン!あれはグラブチ家の別荘じゃなかったか?」
「さすが、よく憶えているな。だがあの家は革命政府に没収されたしまった」
しかしよく見てみると人の住んでいる気配がある。
「誰か住んでいるのかい?」
「いや、誰も住んでないはずだ」
クセインはドライブしているからよく見えないのだ。
「いや、間違いなく人がいるよ!行ってみよう」
良い思い出がないクセインだったが、仕方なくハンドルを左に切って、かつての別荘の門の前に車を停めた。
クセインが降りると、「Agah Kusein Gurabuchi!(クセイン様!)」と老人が走って来た。
「Moseini!Shoma Moseini?(モセイニか?)」と聞くと、
「Balle、Balle! Hale Shoma fube?(そうです、お元気でしたか?)」
と泣きながらクセインの手を握っていた。
「前からこの別荘を管理してくれていたモセイニと言うんだ。夫婦で昔から管理してくれていたんだ」
家の中に入ると、以前と同じように広大な庭の中のオレンジの木がいっぱい実をつけていた。
「ここのオレンジは最高にうまかったな!」
村木が思いだして言うと、感じたのか、モセイニは赤い実のオレンジを採ってくれた。
「Chokoran!(ありがとう)」と言うと、「Chela Non(とんでもない!」と言って頭を下げて手を握ってくれた。
この地方では手を握って頭を下げることは、最高の礼儀なのだ。
Chai(お茶)を飲んでカスピの海を眺めていたクセインは、悲しそうな表情だった。
十五才の時からアメリカに留学して、その後イランに帰国したものの、アメリカ人のマーゴットと結婚してからアメリカとの往復生活で、どちらかと言うとアメリカ生活の方が長いはずなのだが、やはりイランは故郷なのだ。
その故郷に住むことが出来ない想いが、表情を曇らせていた。
「さあ、行こうか」
村木の方から促した。
「うん、そうだな」と言ってクセインはモセイニ夫婦と抱き合って別れを惜しんだ。
「Hoda Afez(さようなら)」とお互い言って別れた。
「もう二度と会うこともないだろう」クセインは言った。
「さあ、キャビアのバザールに行こう」と村木はセンチメンタルになっているクセインに大きな声で言った。