鬼神 冬子

プロローグ

お父さんが急にわたしを寝床に呼びました。
お祖母さんや夏子も一緒でした。
「もうすぐ、『鬼神』を書き上げる。書きあげた時はお母さんと二人だけで祝いたいから、みんなに来てもらった。昨日、奥の院に一緒にお参りした時に般若心経の真意を冬子に理解してもらいたかった。そしてつい先ほどは、『新しい三十二の戒め』を教えたね。これが、お父さんから冬子に教える最後だ。賢治がつくった『宇宙の法則』だ。冬子のこれからにとって一番大事なことが書かれてあるから、よく憶えておくように。明日2023年4月1日は、この国が永世中立国になる日だ。人間というのは懲りない生き物だから、今は殊勝にしているが、お父さんがいなくなったら、また変な奴が出て来る。そういう奴らをお仕置きするのが冬子の役目だ。その為にも賢治がつくった『宇宙の法則』を常に頭に入れておかなければならない。そして冬子の中にいるテンシの言う通りに行動してはいけないよ。テンシはお父さんの想いであるカミの子で月の想いだ。冬子は月の想いを持って生まれてきた。テンシは気性の激しい性格で、いつもカミと喧嘩をしてカミを困らせていた。お母さんや賢治によく相談するんだ。いいね」
そして『宇宙の法則』を読んでくれました。

『宇宙の法則』

1)宇宙の大きさは、最終的には人間が確認できる範囲を超えるもので、それを無限宇宙と言ってもよいし、絶対宇宙と言ってもよい。その宇宙では法則は無限若しくは絶対という一元論でしか表現できない。すなわち人知の及ばない世界がある。
その絶対宇宙が我々の住む宇宙の拡がりの始まりであり、終わりである。
2)我々が住む宇宙の最大の拡がりが全体宇宙であり、この世界で初めて人知の及ぶ世界になる。それは絶対一元から三元論に分化されたからであり、それは膨張・収縮・停止という三つの要因に分かれ、その三つの要因に閉じ込められる。つまり有限の世界になり、人知の及ぶ世界となる。そして人知の及ぶ範囲は複数次元の世界であり、その次元の数は宇宙の拡がりに反比例する。
3)我々の住む宇宙は全体宇宙から銀河星雲という宇宙に絞られていくにつれて、膨張、収縮、停止それぞれの要因が、この星雲世界から二元論を展開していく。
つまり、膨張にも正と負の両面があり、収縮にも正と負の両面があり、停止にも正と負の両面があり、6個の法則に分化され、3個の法則に閉じ込められる全体宇宙よりも狭い世界となり、それだけより人知の及ぶ世界になっていく。
4)更に銀河星雲から我々の住む宇宙は絞られ、太陽という一恒星の世界になり、6個の法則がそれぞれまた二元論的に分化されて12個の法則になり、更に人知の及ぶ世界となる。
5)太陽のような恒星が7000億個ある銀河星雲の中で我々の住む宇宙は更に絞られて、太陽系惑星群が誕生し、12個の法則が更に二元論的に分化され24個の法則に閉じ込められた、更に人知の及ぶ世界となる。
6)24個の法則に閉じ込められた太陽系惑星群の中のひとつである地球が、我々人間が物体的感知のできる世界であり、24個の法則がさらに二元論的に分化され、48個の法則に閉じ込められた、物質で成り立っている、我々人間やその他の地球上のすべての物体の住む世界となる。
7)全体宇宙から銀河星雲さらに太陽系恒星そして太陽系惑星群の宇宙世界への絞りは連続的法則に則した世界であるが、太陽系惑星群から地球の世界に絞られるときは、法則は同様に分化されるが、それまでの絞りのベクトルが変わり、非連続になる。
8)我々の住む地球世界は48個の法則に閉じ込められた宇宙世界であり、太陽系惑星群とは非連続である隔絶された世界になり、そこから未来的には月という地球の48個の法則が更に二元論的、連続的に分化され96個の法則に閉じ込められた宇宙世界へと展開されていく。そこは人間が住むにはより快適な最終宇宙世界となる。
9)人間にとって快適な、最終宇宙世界である月は96個の法則に閉じ込められている。我々人間の向かうべきところは96個の法則のある月が最終目的地であり、そこから太陽に飲みこまれ、銀河星雲に飲みこまれ、全体宇宙に飲み込まれ、また初めの絶対宇宙へと回帰していくが、その回帰した絶対宇宙は、最初の全体宇宙の反物質の世界への橋となる。その橋は200億年周期で上がり下がりする役割を持ち、普段は非連続、すなわち橋は上がったままで渡ることは出来ない。次に橋の下がる時期は50億年後であり、それまでに人間は48個の法則に閉じ込められた地球世界から96個の月世界に移り住むことになる。

以上の宇宙法則の概論を認識した上で、我々人間は、地球という宇宙世界を閉じ込めている48個の法則に反しないように生き、且つ、来るべき月への移住の為に心の準備をしておくべきである。
「飛ぶ鳥、あとを濁さず」の法則もその48個の法則のひとつであるが、月へ移住する際に、世話になった地球を汚して立ち去ることのないよう、よく48個の法則を守ることである。
星の意識は、若き女性の心よりも繊細なものであり、特に地球や月の意識は更に繊細であることを、生かされている人間は常に心しておくべきである。


お父さんは、読み終わると満足気に寝床に横になりました。
「さあ、みんなお父さんとのお別れは済んだから、お母さんとお父さん二人だけにして頂戴」
お母さんが、本当に幸せそうな表情でそう言いました。
それからすぐ、お父さんは亡くなりました。
先ほど、わたしを呼んだのは遺言だったのです。
今年の1月の終わりから、冬子に20年前のみなさんに語るように言ったのも、2023年3月31日にこうなることをわかっていてのことだったのです。
わたしは悲しくありません。
それよりも緊張しています。
これからのことを考えると。
しばらく考えごとをします。


2023年3月31日午前6時   鬼神冬子
(2005年2月26日午前6時)




「鬼神冬子」おわりにあたって

わたしは沖縄に行ったことがありません。
しかし、以前から沖縄を舞台にした小説を書きたいと思っていました。
そこへ、『島唄』を聴き、胸の中に大きくイメージが湧いてきたのです。
大きなスクリーンに映る沖縄の海の景色と、大きなスピーカーから聴こえる沖縄の柔らかい風の音が、わたしの胸に飛び込んで来たのです。
これから描く小説のタイトルがすぐに、わたしの指に指令しました。
『風に乗り、鳥と共に』であります。
では、
『風に乗り、鳥と共に』でお会いいたしましょう。


平成24年2月19日    新 田  論