Chapter 89 人類の不幸の原因

蜃気楼は、太陽の光で熱せられた地面が、ちょうど鏡のようになって反射する現象です。
車が走っていると、車の下の地面が鏡になって、地面にも車の姿が映し出されるのですが、遠くから見るものの微妙な角度で、車が実物よりも遥かに大きく見えるのです。
車でなくても、地面そのものが鏡になって光り、湖のように見えたりするのが蜃気楼なのです。
つまり、実体のまったく無い大きな湖があるように見えるのは、見る側の錯覚ですが、少なくとも地面があるから、地面が鏡になって反射していることは確かです。
蜃気楼が、湖に見えるのは、見る側のものが水を欲しているから水に見えるだけで、若し、寒い砂漠の中をぶるぶる震えながら蜃気楼を見たら、炎が大きく上がっているように見えるでしょう。飽くまで見る側の心理状態に依るわけです。
しかし、蜃気楼には先程申しましたように、実際に車が走っていて、その車が実物よりも大きく見える蜃気楼もあるのです。
従って、時間の経過と共に、その車は近づいて来るか、それとも遠ざかって行くのです。
つまり、わたしたちが悩み、不安に思っている過去や未来について想いを馳せている事柄にも、まったく根拠の無い場合もあれば、根拠がある場合もある。
人間、それほど馬鹿ではありませんから、根拠の無いことばかりで悩んでいるわけではなく、やはり悩み、不安に思う理由があるから悩んでいるわけです。
それは確かにそうなのですが、ここではっきりさせておかなければならないのは、根拠のある蜃気楼、つまり先程のたとえで言いますと、車の蜃気楼ですが、車は確かに存在する。そしてその車が近づいて来るなら、それは未来に対する悩み、不安の種であり、遠ざかって行くのであれば、過去のことを思い出しての悩み、不安であるわけですが、肝心なのは、車の大きさが実物よりも大きく見えることと、見る人の立っている場所からは実は見える所に無いということを認識することです。
若し、蜃気楼がなければ、3Km先の道路を走っている車は見えないのに、太陽の光と道路の鏡とが微妙に反射して見えて来るのです。
すなわち未来予測が、蜃気楼によって可能なわけです。
だから、わたしたちは未だ来ぬ未来に想いを馳せて心配し、不安に思い、悩むのです。
しかし、ここでよく考えなければならないのは、車の姿が予測して見えるのですが、それは実物とまったく同じ姿、形をしていないのです。何かとてつもなく巨大なものに見えているのです。
小さな蟻が蜃気楼に映し出されて、巨大な怪獣のように見えて、恐怖で震えているのです。
時間の経過と共に、傍に近づいて来た蟻を見ると、「なんだ!こんな小さな蟻だったのか!」とほっとするのです。
つまり、蜃気楼は、実体よりも誇張して見えるところに大きな問題があるのです。
精神が異常でない限り、実体の無い湖の蜃気楼を見て怯える人はいないでしょう。
また誇大妄想に陥っている人が、蜃気楼を見て、巨大な湖と錯覚していることもあるでしょう。
しかしわたしたちのような一般の人間にとって、そのような場合は殆ど無く、やはり実体のある車の蜃気楼を見て怯えているわけです。
ただ怯えている車の蜃気楼が、実体よりも巨大に見えていることを、よく理解しておくことです。
問題が生じた時点で、問題の実体を見れば、正確な姿、形が見える筈で、それから対応の方法を考えればいいのです。
従って、蜃気楼に怯えないようにする方法として、物理的にまだ見えないのに、見ようとする想いが蜃気楼を見させるわけですから、要らぬ蜃気楼を見ようとしないことが先ず大事なことです。
それから蜃気楼が見えて来たとしても、それが肉眼で見える実体なのか、それとも蜃気楼となって巨大に映っているのかを見分けるようにしておくことが非常に大切なのです。
人間社会では、確かに地獄絵のようなことが起こります。
戦争などは、その最たるものでしょう。
戦争の犠牲者にとっては、「何が蜃気楼だ!現にこうやって家族が目の前で殺されたのだ!」と言われるでしょう。
しかし、何故戦争が起きたのでしょうか。
結局の処は、それぞれの人間が、実体の見えない蜃気楼に惑わされて間違った行動をした結果が戦争になっているのが実態です。
イラク戦争にしても、お互い、特にフセイン体制にとっては、アメリカの圧力によって脅迫観念に日々苛まれた結果でしょう。
北朝鮮の金正日にしても、まさに巨大なアメリカという蜃気楼を見て、怯える結果、原爆を開発するのです。
アメリカのブッシュ政権にしても、石油に対する欲も絡んでいるが、やはり金持ちが金を失うことに対する怯えと同じで、アメリカという世界一の国家の立場を守りたい、また核を断トツに持っているが故に、核という絶世の美女を、外の多くの国が持つことが許されないのです。やはり絶世の美女は、独占したいのであって、それを奪いに来る蜃気楼を見て怯えているのです。
かつて、ソ連のスターリンが、日本に原爆を落としたアメリカの残忍さに怯えて、水爆を開発したのと全く同じなのです。
結果、冷戦という長い戦争が起こり、どれだけの人々が犠牲になったか計り知れません。
わたしたち個人の問題であるのみならず、人類の問題としても、この人間の、過去や未来に想いを馳せた結果生じる不幸を避ける為には、『今、ここ』を一所懸命生きるしか無いことを、肝に銘じておくことが何にも増して大切なことだと思うのです。
蜃気楼を起こしている蜃という化けものは、実はわたしたちひとりひとりの心の中に潜んでいる小さな虫なのですが、その虫が気を吐くだけで、わたしたちは恐れ震えているのです。
戦争反対を訴えて、デモ行進する人々の姿を世界中で見て来ましたが、その人たちの心の中にも、蜃という虫が潜んでおるのです。
そこの処を解決しない限り、政治如きで人類の平和など決してやって来ないのです。