第三十一章  武蔵・半蔵・日吉

武蔵に会って以来 半蔵は武蔵に惹かれてしまった

武蔵も半蔵に惹かれてしまった

武蔵は日吉と共に 徳川の天下をひっくり返そうとしている

だが半蔵は 徳川のお庭番

ふたりは 独りで悩んでいた

それを察した日吉は ふたりに笑って言った

そんなことで悩むのなら 剣の達人であっても 生きる達人ではない

敵味方はしょせん 夢のまた夢 心の触れ合いは リアルなもの

心の触れ合いがある者同士が 敵味方であることに 何の矛盾もない

それこそ 武士の情けとは このことだ

日吉は剣の達人ではない だが生きる達人だ

日吉の話しを聞いたふたりは今更ながらに 日吉の大きさを感じた

そして ふたりは 日吉の側にいることを決意した

武蔵と半蔵が交差するところに日吉がいる

イエスの十字架は 永遠のリアリティーと幻想のマーヤとの交差するもの

そこにイエスがいる

矛盾と矛盾が交差する そこに大きな磁力が働く

それが人の場合に魅力と言う

生きる達人に魅力があるのは この磁力があるからだ

底の知れない矛盾が 生きる達人にはある

武蔵と半蔵は思った

剣の達人は半人前 生きる達人は一人前

一人前の日吉の右と左に半人前の武蔵と半蔵がいる

ふたりの心の鱗が落ちたとき 半蔵は伊賀の里を去る決意をした

そして武蔵と日吉の旅についていくことにした

これで弥次喜多道中から 日吉座道中になっていく